- アンプティサッカー
アンプティサッカーを牽引する強豪「FCアウボラーダ」
4月。満開の桜並木に包まれる埼玉県障害者交流センターでは、練習に打ち込む選手たちの大きな声が響き渡っていました。
練習をしていたのは、日本アンプティサッカー界を牽引する関東の強豪チーム「FC ALVORADA(アウボラーダ)」。翌月に迫る「レオピン杯コパ・アンプティ」に向けて追い込みをかけている最中のチーム練習を、僅かの時間ですが見学させていただくことができました。
FCアウボラーダは2013年設立。チーム名の「アウボラーダ」は「夜明け」を意味するポルトガル語。
前身である「FCガサルス」時代を含め、公式戦通算6度の優勝を誇るFCアウボラーダは、国内二強クラブの片翼を分け合うFC九州バイラオールに昨年の日本選手権決勝で破れ、雪辱に燃えています。
この日の練習中も、一人として手を抜くことはなく、ぬるいプレイをしようものなら激しい怒声が飛んでいました。
中でも人一倍存在感を放っていたのはこの人、エンヒッキ・松茂良・ジアス、通称ヒッキ選手。アンプティサッカーを日本に初めて持ち込んだのは、他でもないヒッキ選手です。
母国ブラジルでアンプティ・フットボーラーとしてのキャリアをスタートし、17歳でブラジル代表に選出されたワールドクラスのプレイヤー。
そんな彼が来日したのは2008年。就職活動のために来日した日本でアンプティサッカーを紹介し、2010年に本格的に普及活動を開始します。
同年、日本初のアンプティサッカーチーム「FCガサルス」が立ち上がると、その中心選手として活躍し、発足から半年後にはアンプティサッカーW杯アルゼンチン大会に出場を果たします。そしてアンプティサッカーワールドカップに3大会連続で出場し、また国内でも個人タイトルを総なめ。
彼が所属した「FCガサルス」のメンバーは分散し、AFC Bumblebee千葉、FCアウボラーダなどのチームが誕生、今日のアンプティサッカーの礎を築いています。
チームの、そしてアンプティサッカーの中軸を担うベテランたち
FCアウボラーダには、ヒッキ選手と共にキャリアを積んだ実力者が数多く在籍しています。チームの代表である細谷通選手は、試合中は絶えず大きな声でピッチを鼓舞する大黒柱。練習中も存在感を放っていました。
W杯に三回出場した経験を持つ新井誠治選手。チームのフロントマンとしての顔を持つ新井選手は、日本アンプティサッカー協会の理事を務め、アンプティサッカー界を創成期から知る人物でもあります。
GKとしてアンプティサッカーW杯に出場経験のある平賀智行選手。昨年の日本選手権では決勝のPKを止められず、悔しい思いをしました。
練習に参加していたのは西條博信選手。
今野浩選手(上)と増田紀雄選手(下)。
意外なのは選手の年齢層。登録選手20名のうち、40代が11名と半数を占め、そのうち6人が40代後半。全国9チームの中でも平均年齢はかなり高めなのです。練習中も彼らは年齢を感じさせない動きを見せていました。
翌月のレオピン杯に向けて追い込み練習
パラキートが練習場に到着した時は、ピッチ全面を使った実戦形式の練習が始まっていました。おそらくは主力組と思われるビブス無し組と、控え中心のビブス組とで分かれてのゲーム形式です。
まず、真っ先に目に留まったのはヒッキ選手の華麗なプレイ。FK、ドリブル、トラップ、どれを取っても緻密で正確。大会でも間近でプレイを見ていますが、改めて驚かされます。
そして次に目に留まったのは秋葉海人選手。昨年の日本選手権決勝という大舞台で、同点に導く絶妙なFKを沈め、会場を大いに驚かせたその人です。
2つの大会を経て、大きな存在感を身につけた秋葉選手。軽快な動きを見せていました。
この日、関西セッチエストレーラスの渡名喜陽堅選手も練習に参加していました。チーム数が少ないアンプティサッカーでは、仕事の出張ついでに別チームの練習に混ざる…というように、別チームの選手と一緒に練習する姿は珍しくありません。
大会では互いに激しくぶつかり合う選手たちも、練習では切磋琢磨する練習仲間。選手どうし驚くほど仲が良いのがアンプティサッカーの特徴とも言えます。
FCアウボラーダの若き戦士たち
さて、この日もう一人注目の選手がいました。それは新井選手…のボールを奪いに向かわんとする小さな選手、久保満寛(まひろ)選手です。
久保選手は昨年のレオピン杯では公式戦デビュー、また日本選手権でアウボネクストの一員として出場しました。
レオピン杯ではほとんどプレイに関与できなかった久保選手ですが、半年後の日本選手権では体格の大きな大人に何度となく倒されてもしっかりと起き上がり、再び立ち向かっていく姿に大きな成長を感じました。
そんな久保選手、この日も練習では随所に積極性を見せます。ヒッキ選手相手でも臆することなくボール奪取を狙っていきました。
高橋良和選手を懸命にチェイスする久保選手。高橋選手ももちろん全力で引き剥がしにかかります。アンプティサッカーでは、小学生の選手でも基本的に子供扱いするチームはありません。
攻撃面では、ボールを押し込めばあわや一点、というシーンも。しかしここは渡名喜選手がゴールを割らせませんでした。
練習ということもあり、ボールタッチの回数は多め。小さなうちからボールに触れる機会を増やすことは重要なことです。
公式戦では石井賢選手や福田柚希選手といった小学生プレイヤーも、大人に混じって得点を決めています。体格差による配慮こそあれど、練習では大人と等しく扱われ、それが選手の自立を促しています。
それを感じたのがこのシーン。2歳年上の石井賢選手にポジションについてディスカッションをしている場面です。選手としての意識の現れを感じさせます。
その石井選手も汗をかいていました。昨年のレオピン杯から約1年、背が伸びたような気がします。髪の毛を短く刈り、ひときわ精悍になった印象。
昨年の日本選手権では久保選手とともにアウボネクストの一員として出場。しかし思ったような結果が出せず、チームも大敗。悔しさからか、石井選手が試合中に目元を何度も拭うシーンもありました。
あれから半年近く。時々他の選手からの厳しいコーチングを受けながら、石井選手は黙々と練習に打ち込んでいました。
後から加入した3つ年上の秋葉選手がチームの主力組として躍動する姿に、焦りを感じるのかもしれません。
結局この日、満足のいくプレイができなかったのか、憮然と座り込む石井選手の姿がありました。でもきっとこの姿は内に秘めた向上心の表れ。迷いを払拭し、レオピン杯でのびのびとプレイする姿を見たくなりました。
スタッフも元気なFCアウボラーダ
FCアウボラーダに限らずどのチームも基本スタッフは元気。いつも沈着冷静な半澤真一監督の溌剌としたプレイを見たのがこの日初めてだったので、ついファインダーを向けてみました。
FCアウボラーダの創設時から活動する半澤監督は30代前半。40代後半の選手が半数を占めるFCアウボラーダを沈着冷静に統率しています。チームの信頼は厚く、誰もが皆、監督の一声一声に耳を傾けます。
控え組に混じり、走り回る半澤監督。時々試合を止めては選手たちとともに改善点を話し合います。
しかし熱くなればそこはサッカー好き。プレイ中もかっ飛んでました。
そしてもう一人、プレイヤーとしてゲームに参加しながら選手たちを指導する野口魁ヘッドコーチ。彼は義肢装具士として選手をサポートしながら、指導も行います。
野口ヘッドコーチは、今年1月に静岡県清水市で開催されたアンプティサッカーの東西対抗戦ではチームEASTの監督を務めるなど、指導者としてのキャリアも着実に積んでいます。
この日は披露することはありませんでしたが、彼のクラッチさばきは相当なもの。健常者も参加できる4人制アンプティサッカー大会「Sete Cup」で、ヒッキ選手らとともにチームを組み優勝するなど、選手として十分に活躍できるテクニックを持っています。
パラスポーツを盛り上げるべく「ライオンくんと義足のぎそくん」としても活動中。かわいいキャラクターとともに、義足のことをもっと知ってもらえたら、と地道に活動を続けています。
ライオンくんと義足のぎそくんに会いに行こう↓
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この日は1時間ほどの訪問で、あまり長く練習を拝見することはできませんでしたが、その強さの理由を垣間見ることができました。5月のレオピン杯ではデフェンディングチャンピオンとして大会初の連覇を目指すFCアウボラーダ。アンプティサッカー界の夜明けをもたらす存在になったチームは、ベテランと若手の融合により、さらなる高みを目指して邁進します。
FCアウボラーダの選手・スタッフの皆様、練習見学にお邪魔させていただきありがとうございました!
(了)
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