- サッカーの現場から
電動車椅子サッカーの聖地「エコパ」が再び歓声に包まれる日
赤と緑、2つの歓喜に彩られた2日間から早1年。エコパアリーナが再び歓声に包まれる日がやって来ました。2018年12月1日〜2日にかけて開催される「日本電動車椅子サッカー選手権大会」。時速6km、10kmの2つのカテゴリに分かれ、それぞれ合わせて29のチームが集う国内最大の電動車椅子サッカーの祭典です。
初めて2カテゴリに分かれて実施された昨年大会では、今まで日本選手権予選止まりに終わっていたチームが多数参加し、数々の名勝負が生まれました。
そして日本選手権をきっかけに、各地域での対外試合が盛んに行われ、活気に満ちた電動車椅子サッカーシーズンとなりました。その締めくくりとなる今大会の展望はいかなるものか。それぞれのカテゴリの展望を占ってみたいと思います。
智謀と想いの強さがもたらした「SFCデルティーズの衝撃」
23回続く日本電動車椅子サッカー選手権大会、時速6kmカテゴリ。地元静岡の空に優勝のトロフィーを掲げたSFCデルティーズの優勝は、大会史上稀に見る衝撃でした。
所属選手の少なさ、大会実績を見ても優勝候補とは言えなかったSFCデルティーズの戴冠は、同じくタイトルを獲った経験のない全てのチームに驚きと勇気を与えました。
その影響か、新設の時速10kmカテゴリ同様、地方大会や各チーム間の交流もかつてないほど活発になり、各チームはやる気に満ちています。
電動車椅子サッカーを誰よりも愛する、緑の王者SFCデルティーズ
昨年の日本選手権後は、他チームとの練習試合や時速10kmカテゴリの強豪チームとの合宿など、主に大会出場よりも強化に重点を置いて来たSFCデルティーズ。特に近県のDKFBCディスカバリー(愛知県)やバレッツ(長野県)といったチームとの練習試合を重ね、親交も深めるなど、充実ぶりを感じます。
また昨年の優勝の原動力となった金沢ベストブラザーズ城下歩氏の指導を仰ぎ、時速6kmでの試合運びにさらに磨きをかけています。
8月に長野県で開催された「第二回長野県電動車椅子サッカー大会」ではBLACKHAMERS(埼玉県)に敗れ準優勝に終わるも、一定の手応えはつかめた様子。その直後、地元開催の「第19回静岡障害者スポーツ大会 わかふじスポーツ大会」どの経験を経て、再び日本選手権の大舞台へ挑みます。
大会直後に囁かれた、戦術への賛否。しかし、日々の鍛錬や競技への飽くなき情熱は決して選手を裏切ることはありません。そんな雑音を払いのけ、再び優勝へと導くことでしょう。
実力横並び!例年以上に混戦必死のPOWERFUL6
さて、そんなSFCデルティーズも今大会は追われる立場です。触発されて急激に力を伸ばしている各チームを、ブロックごとに見てみましょう。
Aブロックシード権を獲得したSFCデルティーズが二回戦で当たるのは、スクラッチ香川(香川県)とBLACKHAMERS(埼玉県)の勝者。ここ数大会、勝利に見放されているスクラッチ香川は、強豪BLACKHAMERSを相手にジャイアントキリングを決め、昨年のようにSFCデルティーズとのリベンジマッチを実現させたいところ。
しかしBLACKHAMERSは新戦力の加入で戦力充実、昨年大会では成績が振るいませんでしたが、前回以上の成績を上げたいところ。大会をかき回すダークホースになる可能性も秘めています。
実力的にはBLACKHAMERSと出昨年王者SFCデルティーズが拮抗していますが、メンバーの入れ替えがないSFCデルティーズがやや優位か。そこにスクラッチ香川がどこまで食い込めるかで、Aブロックを突破できるチームが見えてきます。———
Bブロック注目のカードは、昨年大会準優勝の大阪ローリングタートル(大阪府)と、第16回横浜・F・マリノスカップを始め、今期出場した地域大会のタイトルを総なめにしたDKFBCディスカバリー(愛知県)の一戦。揺るぎない自信をつけて、チームの雰囲気も変わったDKFBCディスカバリー。
強豪大阪ローリングタートルは、あと一歩で優勝に手が届かなかった悔しさを晴らすため、競技車のカラーを鮮やかなピンク色で染め、一丸となって大会に臨みます。POWERFUL6に咲き乱れる冬の桜。満開の花を咲かせることはできるでしょうか?
もう一方のカードは、2シーズンぶりに時速6kmへ復帰したバレッツ(長野県)とMAX(三重県)。MAXは若干去年と戦力が変わっている様子ですが、強豪チームとの練習試合を重ね、チーム力は着実に増しています。
昨年大会で時速10kmに挑戦し、初戦のNanchesterUnited鹿児島戦でその洗礼を浴びたバレッツは、馴染みのある時速6kmの舞台に復帰しての再挑戦。水を得た魚のように暴れまわるであろうバレッツを、MAXは止めることができるか?
優勝候補の大阪ローリングタートル、急激に力をつけたDKFBCディスカバリーの勝敗の行方が鍵を握ると言っても良いBブロック。バレッツの復調が彼らの運命を左右しそうです。———Cブロック
Cブロックは中堅的存在のチームがひしめき合う魔のグループ。ストライクフォースを揃え、さらに機動力の増したTAMA猿(東京都)は、10月の横浜・F・マリノスカップでは初戦敗したものの、DKFBCディスカバリー相手に1点を記録。試合中相手を苦しめる場面も見せました。
TAMA猿を迎え撃つのは、高い戦力を誇る廣島マインツ(広島県)。キャプテンの想いをしっかりと受け継いで、決意を新たに大会に臨みます。
もう一つは、チーム名を新たに再始動したJPDソニック~京都電動蹴球団(京都府)(日本選手権登録時には旧チーム名称)とInfinity侍の組み合わせ。JPDソニック〜京都電動蹴球団は多くの大会出場を通して、実戦での強化に力を入れたシーズンでした。
迎え撃つinfinity侍は、昨年の初戦はFINEとの接戦の末にPK戦で敗れ去る悔しい思いをしています。実力では格上の相手かもしれませんが、可能性はinfinity(無限大)。のびのびとした試合を見せてくれるでしょう。
機動力に勝るTAMA猿が4チームの中ではひとつ頭の出る状況か。それともチームワークに定評のある廣島マインツの想いが勝るか。JPDソニック〜京都電撃蹴球団も特別な想いを持ってこの大会に挑みます。それはinfinity侍も同じ。気持ちを強く持ったチームがブロック通過することは間違いありません。
———Dブロック
こちらも優勝候補と目される兵庫パープルスネークス(兵庫県)を始め、強豪ひしめくブロック。常に安定した強さを誇る兵庫パープルスネークスも「電動車椅子サッカーパワフルリーグ」に参加し西日本の強豪との試合を重ねてきました。PK戦の末に敗退した前回大会の悔しさを今年こそ晴らしたいところ。
対するは、いぶし銀の力を見せつけるFINE(東京都)。3人という圧倒的人数不利な状況でも、強豪チームに果敢に挑んで行く姿は他の選手たちの心を揺さぶるものがあります。初戦の兵庫パープルスネークスは厳しい相手。ですが、ここぞの踏ん張りを見せるFINEの戦いぶりに期待です。
もう一方は高い実力を誇るウィニングフェニックス(千葉県)とファインフレンズ(大阪府)との一戦。昨年大会ではTAMA猿相手に一歩及ばす悔しい初戦敗退となったファインフレンズは、「電動車椅子サッカーパワフルリーグ」に参加。IPDソニック〜京都電動蹴球団、F.C.LUTESTEAR SHIGAと同組となり3チーム中2位。着々とその実力を伸ばしてきました。
一方のウィニングフェニックス(千葉県)も、関東大会や千葉県大会などに出場。試合経験は少ないものの、昨年よりもさらに先へと駆け上るために強化を進めてきました。
昨年準決勝まで勝ち上がった兵庫パープルスネークスが4チームの中では抜きん出た存在ですが、各チームの今期の強化がどこまで図られているかは未知数。油断をすれば出し抜かれるのが時速6kmカテゴリなのです。
絶対王者不在の時速6kmカテゴリ
近畿地方では「電動車椅子サッカー近畿パワフルリーグ」がスタートし、それまで交流試合や地域予選大会が主な主戦場だったチームも、年間通しての強化が測れるようになりました。そのほか西日本でも、イベントでの親善試合などが増え実戦経験を積む機会が確実に増加。地区予選が無くなったことで危機感を感じた各チームの自主的な動きが目立ってきました。東日本の各チームも同様に、合宿や遠征などを増やしてチームレベルの向上に努めている印象があります。昨年のSFCデルティーズの優勝は、戦術を駆使し、個々の精度を高めればどのチームでも優勝を狙えることを示しました。絶対王者不在のPOWERFUL6、どんな展開になるか楽しみです。
②へ続く
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