- サッカーの現場から
全員で優勝を
各5チームずつ2つのグループに分けられた計10チームが、グループごとに総当たりで対戦し、各グループの1位のみが決勝に進める(順位決定戦なし)という、かなりハードなレギュレーション。予選は4試合。勝ち点計算や得失点差も大きく影響します。
FC PORTが入ったグループは、大阪、関西予選と多くの試合を勝ち上がってきたYARIMASSE大阪、2大会連続出場のリベルダージ北海道という難敵が同組に。この2チームと同日2連戦を避け、しかも初戦に当たらずに済んだことはラッキーでした。
もちろん他の2チームが楽という意味ではありませんが、手強いイメージが先行していた2チームとの対戦に、心の余裕を持って臨むことができることはプラス材料です。そのためには、初戦でどのような試合ができるかが鍵になります。
——初戦の相手、鳥取県選抜の情報はほぼゼロ。佐藤監督は「どんな相手でも、今まで練習でやってきたことをやろう」と選手に語りかけます。
そして、もう一つ監督からの指示がありました。それは「1点でも多く得点を挙げて、控えメンバーも全員で出場しよう」ということ。チーム最年長のザキさんと、ボクサー歴のあるノブさん。
おっとりながらもムードメーカーで、チームに欠かせない存在の彼ら。しかし関東大会では二人とも出場機会なし。それでも一切不満を言わずベンチから応援し続けました。
高額の遠征費を負担しても、展開によっては1試合も出場機会がないかもしれない。それでも「みんなで全国大会を戦いたい」とチームに帯同してくれた彼らのためにも、全員が点を取る気持ちで初戦に臨んでいました。
いよいよ初戦!第一試合 vs鳥取県選抜戦
けたたましいホイッスルとともに、FC PORTの初戦が始まりました。硬い入りになるかと思いきや、開始20秒でハッシーがファーストシュート。ハッシーの動きに、鳥取県選抜は翻弄されるばかり。
相手の球離れが遅いと見るや、トビくんとハッシーは素早いハイプレス。
ペースを握らせないまま迎えた前半2分、ハッシーが角度のないところから渾身の一振り。相手GKの脇をすり抜けたシュートがゴールに突き刺さります。早くもFC PORTが先制。喜びを体で表すハッシー!しかし監督は表情を崩しません。
そしてその2分後、今度は後方でトビくんからのパスを受けたムーチさんが、相手GKの位置を確認すると右足を一閃。幸先よく追加点が生まれます。
前半4分には相手のパスをカットしたハッシーがそのまま持ち込んで3点目。
この得点で完全に試合のペースを握ったFC PORTは、トビくんに代わって入ったカトちゃんのプレイが冴えわたります。
カトちゃんは関東大会後に加入した後発組。彼もまた引きこもりの期間があり、一人で練習場には通えず、常に親御さんが付き添う状態でした。
飄々と相手を抜き去る優れた足技が持ち味ですが、加入当初は守備意識が薄く、ボールを奪われても追いかけないなど、今ひとつ闘志に欠ける面もありました。しかし彼もチームの成長とともに、よりチームのためのプレイへと変わっていきました。
相手を巧みなドリブルでかわすカトちゃん。攻守のバランスを取るモッチー、守備の統率をとるムーチさん、二人のサポートを受けて、前線でのびのびとプレイします。
そして、前半8分にはムーチさんのCKをカトちゃんが押し込んで4点目を叩き出し、歓喜のハグ !!
その後もペースを握り続けたFC PORTは、前半を4-0という理想的なスコアで折り返しました。
FC PORT史上初、全国大会初勝利!会場をざわつかせた「青いの」
後半もFC PORTは攻勢を緩めません。後半1分ムーチさんが追加点。さらには後半6分にトビくんがこの試合初得点を記録します。
7分にはベテランメンバーのツーヨンも初得点をマーク。
得点こそなかったものの、コバちゃんも気迫みなぎるプレイで何度も相手ゴールを脅かしました。
この試合、後半から入った浅井くんも攻守のバランスを取りながらゲームを落ち着かせます。
浅井くんが持つ障害は「強迫性障害」。ゴミが捨てられない、施錠を何度も確認する、歩いた道のりを何度も戻っては確認する…その障害と、実に30年以上も付き合っています。
実はパラキートにとって浅井くんは、20数年来の親友同士。強迫性障害に苦しむ姿を、パラキートも20年近く見てきました。外出するのも大きなストレスになる彼が、フットサルコートの中では障害を忘れて本来の自分を出せるのです。
彼は最高の舞台で、水を得た魚のように軽快に走り回り、チームに安定をもたらました。それはパラキートにとっても、最高に嬉しい瞬間でした。
その後トビくんの追加点を含め、後半10分の間に合計8得点。そして後半9分、ここで監督はついにザキさんを投入。
交代直後にはシュートも放つなど、積極的にプレイに絡むザキさん。3分足らずという短い時間でしたが、ザキさんはきっちり役割を果たし、ノブさんへとバトンタッチ。
ザキさんと入れ替えでピッチに入ったノブさんも、懸命にボールを追いかけます。
ノブさんは残りの時間、ピッチを走り回り続けました。一生に一度の舞台に立ち、確かな足跡を残した二人。何よりみんなと一緒に戦えたことを「誇り」と語ってくれました。
二人が出場した4分間の間にさらに2得点を追加し、そのまま試合終了のホイッスルを聞きます。10-0。FC PORTは初めての全国大会の初戦を、大量得点&無失点、チームメンバー全員出場という最高の形で終えました。
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正直に言えば、この時までFC PORTがどれほど強いのか懐疑的でもありました。対戦相手を立てて練習したのは、半年間でたった3回。それが今、まるで王者のように伸び伸びとピッチを駆け回わっています。
「なんだあの青いの、すごいな」「FC PORT?聞いたことなかったな」
観客が呟く声が、ピッチサイドのパラキートにまで聞こえました。1試合目を終えた時点で、FC PORTは観客すべての視線をさらう存在になっていたのです。その言葉を耳にしながら、パラキートは誇らしい気持ちでいっぱいでした。
⑤へ続く
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