FC PORT航海記〜日本一を目指した180日間③FC PORT愛媛に降り立つ

  • サッカーの現場から

一路愛媛へ

10月27日、午前8時。通勤ラッシュで混み合うホームに、メンバーは立っていました。通勤時間にメンバー揃って電車に乗る機会など、そうそうあることではありません。

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最近まで家に引きこもっていたり、飛行機の搭乗どころか県外へ出たことない選手も何人かいます。彼らにとっては「人生初の旅」。期待と不安が入り混じる、愛媛への道のりです。横浜から成田空港までの2時間、それまでゆっくり話をしたことがなかった選手と話すことができました。トビくん。19歳の彼はチーム最年少にして、在籍年数ではジュンコさんに次ぐ長さです。いつも一人黙々と本を読んでいるので、思い切って話してみたのでした。

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発達障害を持つ彼は、その特性ゆえに所属していたジュニアユースに馴染めず、3ヶ月で半ば追い出されるように退団。それでも大好きなサッカーをしたい、そんな想いで門を叩いたのがFC PORTでした。

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他人との会話が苦手で、人の名前が覚えられず、心を閉ざすトビくん。そういえば、パラキートも加入して1年近く、名前を覚えてもらえませんでした。チームのエース、ハッシーを慕っている彼は「自分のアシストでハッシーさんをソーシャルフットボール日本代表選手にしたい」と意気込みを語ってくれました。

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実はトビくん、この年3月に行われたデフフットサルチャレンジカップで、ハッシーと共に関東選抜選手として選出されるも、一人だけ出場機会がなかった苦い経験があります。

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全国大会で優勝して、ハッシーさんを自分のアシストで代表に送り出したい、それが今の自分のモチベーションなのだと。そして、同級生にからかわれながらも3年を過ごした高校のみんなに、自分が成し遂げたことを見せつけ(報告し)たいと。旅の高揚感からか、いつになく嬉しそうに色々聞かせてくれたトビくん。いつもと違う環境は、人を饒舌にさせるものらしい。楽しく嬉しい2時間はあっという間に過ぎていきました。

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一行は成田空港に到着。搭乗時間ギリギリにカウンターへ駆け込み、なんとかセーフ。偶然にも同じく関東代表のEspacioと空港で鉢合わせし、互いに健闘を誓い合って別れました。と言っても2時間後、松山空港のレストランでまた顔合わせするわけですが…。ムーチさんは飛行機も手慣れていますが、はしゃぎ過ぎ。

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空旅を満喫している様子。心配する必要はなかったみたい。

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FC PORT 四国に初上陸す

同日昼過ぎ、FC PORT一行も全員無事、愛媛・松山空港へ到着。

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空港では名物の鯛めしとポンジュースに舌鼓。すっかり堪能。蛇口ひねればポンジュースが出る伝説は本当だった!(有料です)

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私たちが出場するソーシャルフットボール全国大会は、愛媛障害者国体のオープン競技。空港には揃いのユニフォームを着た各県の選手団たちが続々と到着し、障害者国体のボランティアが出迎えていました。なんと、同時刻には皇太子殿下も到着。沿道には日の丸が幾重にもはためいていました。

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チームをサポートしてくれる今井さん(右端)も合流。今井さんはFC PORTを昔から知る人。選手たちへの理解も深く、心強いスタッフです。空港にてパシャリ(左端にご注目)。

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レンタカーに便乗し、まんが日本昔話のような風景の中を走ること1時間、合宿地の西条市にたどり着いたのは、日が傾き始めた夕方4時頃。

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宿舎に着くと程なくして、近所の公園で軽いトレーニングです。長旅の疲れも見せず、楽しそうに体を動かす選手たち。

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謎のブラジル体操。うまくできた人は一人もいません。

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トビくん、それ阿波踊り

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日が暮れるまでボールを蹴る姿はまるで子供。

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いつもよりものんびりとした時間。「本番は明日だし、今から緊張している人もいるだろうけど、今日頑張る必要はないからね」監督の言葉が、選手を緊張から解放します。

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そう、本番は明日。今はこのひと時を楽しもう。涼しい風が吹く公園に、選手たちの笑い声がいつまでも響いていました。

暗雲垂れ込める大会初日

10月28日、午前8時。朝食を食べにロビーに降りてきた選手たち。皆一様に、その表情には不安と緊張が影を落としていました。

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気象庁HPより10/22日の空模様

季節外れの台風が四国を直撃し、前日の晴天が嘘のような大粒の雨。日程が一日に短縮される可能性もあり、状況ははっきりしません。

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午前10時。落ち着かないメンバーたちは一足お先に会場へ。ホテルから車で10分、畑が延々と広がる中に忽然と姿を表す全天候型コートが、会場となる「ビバ・スポルティバSAIJO」。

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第一試合開始が15:30〜なので、当然一番乗り。明らかに早く来すぎました。

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会場では設営が始まり、スタッフがせわしなく走り回っていました。台風がスピードを緩めたため日程に変更はなく、胸をなで下ろします。FC PORTの横断幕も到着!大会公式横断幕よりも大きいという目立ちぶり。

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FC PORTと対戦した3チームはやりにくかったかもしれませんね。

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午前11時、コート解放。各チームの選手たちは会場に到着し、念入りにウォーミングアップを開始。FC PORTも硬い表情でウォーミングアップを始めます。そんな中、佐藤監督がまず指示したのは、なんと「行進の練習」。

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「関東代表として恥ずかしくない入場行進を!」「恥ずかしがらない!」「腕上がってない!」監督の怒声と選手の笑い声が響きます。

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気がつけばみんな笑顔に。緊張は少しだけ和らいだ様子。

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さてこの頃、応援席では選手の家族が神奈川から到着し、慌ただしく応援の準備を始めていました。実は、FC PORTでは選手の家族が大会に応援にきたことは、ほとんどありません。この半年、選手だけでなく見守る家族にも少しずつ変化がありました。

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そんな家族の目の前でも行進の練習を怠らないFC PORT。その傍らで、笑いをこらえるの必死な選手のお母様が。すれ違う他チームの監督や選手も苦笑いです。

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いよいよ始まる、運命の2日間

そして、国体公式ソングが鳴り響く中、開会式が始まりました。練習を重ねた入場行進はインパクトは絶大。観客も笑顔で見守っていました。

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全国で各地域予選を勝ち抜いた10チームが集結。ここ愛媛の地で、日本一をかけて2日間に渡ってしのぎを削ることになります。

okina-para-sports.hateblo.jp 

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選手宣誓とともに開会が宣言され、運命の2日間がいよいよ始まろうとしていました。

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すべてはこの日のために

FC PORTの初戦はいきなりの第一試合から。開会式前とは打って変わって、チーム全体に引き締まった空気が流れます。

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そして、ハッシーの腕に巻かれたキャプテンマーク。ササキャプテンの重責を引き受けたのは、ハッシーでした。

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2年連続、関東大会で得点王(今大会ではMVPも)獲得したハッシーは、前述の通り関東選抜にも選ばれたエース。大会MVP&得点王、関東選抜への抜擢も、彼は有言実行して見せました。

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実直で心優しく、そして有言実行男のハッシーですが、彼にもまた、精神疾患の影響で社会生活にとけ込めなかった過去がありました。

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しかし、彼は今やチームにとって欠かせない精神的支柱。彼が言ったことは必ず実現する、誰もがそう信じていました。

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そのハッシーが大会前、こんな内容のメールをメンバー全員に送っていました。メールにはこの大会にかける意気込みと、チームを思う気持ちがあふれていました(ちょっとだけ抜粋)。

僕らがPORTの、大会の歴史を塗り替えるんです。心の準備はできていますか?大丈夫。僕らはどのチームよりも熱い友情とフットボールへの情熱があるから。全国大会に向けて皆が一つになっていく姿、そのメンバーのなかにいれたことを心から幸せに思います。人生で二度とないこの2日間、思いっきり暴れて全国にPORT旋風を巻き起こそう!!

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関東大会以降、個よりもチームに対する気持ちが強くなったハッシー。この予言通り、FC PORTは大会で旋風を巻き起こすことになります。

試合前最後のアドバイス。注意点を説明し、チームの基本戦術をもう一度みんなで確認。

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最後に、監督が静かに口を開きます。「よし、みんな深呼吸しよう」。半年間、そして10年かけて乗り越えてきた様々な困難と喜び。全てこの2日間にぶつけます。

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目を開き、そして静かに組まれる円陣。「uuuh…PORT! Futsal!」

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相手は鳥取県選抜。相手にとって不服なし。さあ、思う存分暴れてこい!

 ④へ続く

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「パラキートのパラスポーツ日記」では、一人の障害者サッカーファン「パラキート」が自分の脚でおもむき、自分の目で観て、自分の耳で捉え、自分の指で撮り、自分の頭で考えたママを発信していきます。

記事を通して、競技を取り巻く人・環境・社会問題に触れ、この魅力的な世界に関心を寄せ、寄り添ってくださる方が増えることを願っています。

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『"Pick"=掴み取る、選ぶ」と「"Phat"=格好いい、イカした』を組み合わせた造語を屋号に掲げる「PickPhat」。クライアントの意思を尊重し、選び抜いてイカしたサイトをクライアントと共に作り上げます。代表の加藤高明氏は電動車椅子サッカーチーム「Yokohama BayDream」の選手としても活躍中。

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