FC PORT航海記〜日本一を目指した180日間②船は愛媛を目指す

  • サッカーの現場から

航路を示しはじめた羅針盤

8月。次の練習から、自宅からの往復4時間近くかけてムーチさんが合流。そのころ多忙を極めていた佐藤監督もチームのために少しずつ時間を捻出。二人が積極的にコミュニケーションを取りながら、本格的な戦術の立て直しが始まりました。練習の回数も、月二回から毎週末へと増加。未就労の選手たちも交通費と参加費を捻出し、ほぼ休まず練習に参加しました。迎えた2回目の練習試合。相手はデフフットサル&サッカー日本代表選手が多数所属する強豪チーム、 神奈川デフフットボールクラブ(KDFC)。そう簡単に結果は出ません。しかし劣勢でも果敢に攻めるFC PORTからは、明らかな変化が感じ取れました。

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大きく変わったのは守備の意識。攻撃と守備のメリハリがはっきりし始めました。この日不在だったムーチさんのアドバイスが、チームに少しずつ浸透していました。

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相手選手へのハードな守備も見えるようになってきました。普段物静かで優しいモッチー(左)もアグレッシブにプレイ。少しずつ顔つきがアスリートの表情になっていきます。

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試合中は言葉少なだったGKジンさんも、選手たちへ指示を出すようになりました。それまではどうしても感覚的だった守備が、ジンさんからの指示でより正確さを増していきます。

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そして何よりも、以前よりも互いに「信頼」を意識し始めました。周囲にボールを預けてもいいんだ、守備を任せてもいいんだ、という意識。チームが一つになるために一番欠かせない要素です。

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印象的だった1シーン。誰からともなく、円陣を組む選手たち。この時、彼らは必死に一つになろうとしていました。

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互いを信頼しリスペクトすること。互いを思いやること。それが「ソーシャル(=社交的な)フットボール」の理念。そのことをまざまざと感じた瞬間でした。

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佐藤監督もGKとしての経験を生かし、体を張って選手のために動きます。スタッフもまた、選手を積極的にサポートしました。

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結果は伴わなかったものの、この日の練習試合で、チーム全体が何かを感じ取ったのは間違いありません。最後に撮った集合写真。選手の笑顔一つ一つに、それは表れていました。人間の成長を垣間見た1日でした。

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この頃から習慣化し始めたのは、練習後の食事。5〜6人でファミレスに寄って食事をして帰る、ただそれだけのことですが、交流を深めるのには十分な効果がありました。時には昼に入店して、店から出る頃には夜になっていたことも。確実に選手同士の距離が縮まっていました。

苦渋の決断。選手それぞれの想い

9月。全国大会の選手登録期限が近づいてきました。・自力で愛媛にたどり着き、自力で帰ってこられる渡航費&参加費を捻出できる・試合展開によっては出場できない可能性もあることを受け入れるこれがチームでの選手登録の条件。そしてベンチに入れる選手の枠は決まっています。関東大会に出場した主力を中心に、約半数が全国大会出場の意思を示しましたが、一部の選手は葛藤のさなかにありました。一人は、関東大会以降にメンバーに誘われてFC PORTの練習に参加し、正式加入したコバちゃん。目を見張るドリブルスピード、小柄な身体から放たれる強烈なシュート。チームのスタメンにも肩を並べる存在です。

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加入当初は交流もほとんどなく、個人プレイに偏りがちだった彼もまた、少しずつチームに馴染んでいきました。しかし、彼の意思表示は「大会不参加」。

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チームはこれまでになく良い雰囲気ですし、次に全国大会に出られるかもわからない。日を追うごとに溶け込んでいく様子を見てきたので、彼の欠場は残念に感じていました。意を決して、パラキートが彼にメールを送ってみると、翌日、彼から「出場します」のメールが。そして続きには「背中を押してもらってありがとうございます」の一言。実は、関東大会に出場していない自分が全国に行って良いのかという迷いがあったのでした。

逆に、当初は参加表明をしながら、苦渋の選択をした選手もいます。ホマチャンは関東大会第一試合の序盤で怪我をし、悔しい思いをした選手。練習では主力としてチームを盛り上げるムードメーカー。選手同士のコミュニケーションも積極的に促してくれました。

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その裏には「迷惑をかけた分を取り戻したい」という気持ちがあったかもしれません。しかし彼にはパニック障害があり、飛行機での長距離移動が難しいことが判明。結局、締め切り直前で参加を断念。

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決断を下した直後から練習に姿を見せなくなった彼のつらい胸中は、チームメイトたちも痛いほどに感じ取っていました。他にも、障害特性や家庭の事情で出場を断念した選手も数多くいました。そして悔しい思いを内に秘め、出場メンバーのために練習相手を引き受けてくれました。チームの古株、ハヤトもその一人。

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彼は「ま、自分は出場しないから関係ねーや」と強がりを言いながら、積極的に練習相手を買って出てくれました。チームを長く見てきているからこそ、全国大会には人一倍強い想いを抱いていました。

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「愛媛無事着いた?どう?みんな緊張してない?」全国大会前夜、チームを気にしてアドバイスの電話をかけてくれたハヤト。彼とも全国大会の興奮を分かち合いたかったと、今でも思います。遠征費用の貯め方をアドバイスしたり、出場を渋っている選手には説得を繰り返したり。こうして、選手登録期限ギリギリまで調整を重ね、最終登録選手&スタッフが決定。全国大会に向けて、ついにFC PORTの陣容が固まりました。f:id:okina_monkparakeet:20180317005853j:plain

メンバーが固まり戦術練習にも熱が入ります。TDFC(東京デフフットボールクラブ)をはじめ、多くの方の協力も借りながら、練習に打ち込む日々が続きました。

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「今は無理に頑張らなくていいから。今は本気出すタイミングじゃないから」監督は決して無理をさせません。選手たちも練習を「楽しむこと」を忘れませんでした。

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季節外れの嵐

大会直前まで、FC PORTは文字通りの嵐に見舞われました。台風が秋雨前線を刺激して、連日の雨、雨、雨。予約していた屋外コートはすべて全滅し、9月、10月だけで3回練習が中止の危機に直面しました。もはや笑うしかない状況でした。

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そんな状況にも、普段はコート予約をジュンコさんに任せていたメンバーが、連絡を取り合いながら手分けして空いている屋根付きコートを探す。いつの間にか、選手たちの気持ちは一つになっていました。そして10月中旬、大会前最後の練習。全国大会を断念した選手も、チームのために練習に参加。協力を申し出てくれた友人たちも交えて、この半年の総仕上げです。そこにはホマチャンの姿も。

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佐藤監督の指示に全神経を集中し、プレイを再確認。

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大会の展開によっては、出番がないかもしれない控えの選手たち。「みんなと同じピッチに立ちたい」その想いがあるからこそ、練習で手を抜くことはありません。

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声を出しながら選手同士がお互いの関係を確認し合う。関東大会から半年、チームは「戦う集団」として、さらに進化を遂げました。

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選手が自主的に集まって話し合いを重ねます。選手を束ねるムーチさん。そこには、数ヶ月前の遠慮がちな彼の姿はもうありません。

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ポルトカップ以来仲良くさせてもらっている世界的なフリースタイラー集団「球舞」浅井氏も応援に駆けつけてくれました!

球舞 | フリースタイルフットボール | freestyle football

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デフサッカーの選手にも協力してもらい、ハイレベルな練習。

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この半年の充実感と大会に向けた緊張感が混ざりあった表情を浮かべる選手たち。やるべきことは全てやった。結果を出すことより、とにかく大会を楽しむもう!

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練習後にはサプライズ。みんなからの寄せ書きボールのプレゼントです!しげしげとボールを見つめ「…こういうのって全国大会終わったあともらうもんじゃないの?」空気を読まない監督のツッコミ。照れ隠しですw

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なぜか土砂降りの中、ブルーシートを広げて決起集会(お菓子パーティ)。こういうお茶目なところも、うちのチームらしさが出ていましたw

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兎にも角にも、準備は万端。あとは出発の日を待つだけ(この時まだユニフォームは出来上がってませんでしたが…)。全国大会はすぐそこまで迫っていました。

③へ続く————————————————————————————————–

パラキートのパラスポーツ日記とは

「パラキートのパラスポーツ日記」では、一人の障害者サッカーファン「パラキート」が自分の脚でおもむき、自分の目で観て、自分の耳で捉え、自分の指で撮り、自分の頭で考えたママを発信していきます。

記事を通して、競技を取り巻く人・環境・社会問題に触れ、この魅力的な世界に関心を寄せ、寄り添ってくださる方が増えることを願っています。

プログラム制作・HP管理/「PickPhat(ピックファット)」

『"Pick"=掴み取る、選ぶ」と「"Phat"=格好いい、イカした』を組み合わせた造語を屋号に掲げる「PickPhat」。クライアントの意思を尊重し、選び抜いてイカしたサイトをクライアントと共に作り上げます。代表の加藤高明氏は電動車椅子サッカーチーム「Yokohama BayDream」の選手としても活躍中。

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