帆に風受けて〜第2回ソーシャルフットボール全国大会関東予選 番外編

  • サッカーの現場から

FC PORTの挑戦

FC PORT(ぽると)。港町横浜で活動するこのクラブは、2008年の創設以来、メンバーが入れ替わりながらも活動を続けてきました。「PORT(港)」を表すチーム名の通り「チームメンバーがいつでも帰ってこられる、立ち寄ることができる港」として。練習は月二回。経験豊富な佐藤監督の指示のもと、10人ほどのメンバーで練習を行い、監督不在のときはキャプテンが練習メニューを組みながら、2時間ほど汗を流しています。チームの基本は「当事者運営」。母体となるデイケア施設や支援団体を持たず、そして練習場の予約、練習メニュー、遠征計画、見学者の応対…全てを当事者のみで行います。

創設からの目標は「関東大会優勝」、そして「全国大会出場」。とはいえ、メンバーそれぞれが自分たちのペースで、自分たちなりの目標を持って練習に取り組む、アットホームなチームです。

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FC PORT

©JSFA 

そんなFC PORTが、2月のソーシャルフットボール関東大会で準優勝を飾り、チーム創設以来の悲願の全国大会出場権を手にしたのは、先日レビューでお伝えした通り。

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実はその裏にはいろんなことがありました。10月の全国大会に向けて、一段落ついたソーシャルフットボール界。このタイミングを借りて、FC PORTの奮闘をちょっと振り返ってみたいと思います。

チームの「精神的守護神」

長年、FC PORTのゴールマウスを守っているGK鈴木仁選手。持ち味の冷静な判断と落ち着いたコーチングで、チームにポジティブさと引き締まった空気をもたらすキーマンです。今年の1月、ソーシャルフットボール体験会の記者会見に出席し、自身の経歴について語ってくれた、その人です。

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実は鈴木選手は、記者会見前の練習中に膝を痛め、大会直前まで満足な練習ができませんでした。しかも、彼にとっては悪いタイミングで新たなGK候補が加入し、正GKの座を奪われてしまいます。しかし、鈴木選手はチームのために尽力しました。記者会見でチームの顔として臨み、大会の直前練習では控えGKとして練習に参加、チームミーティングでも積極的に発言しました。

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迎えた関東大会本番では、第2戦の埼玉CAMPIONE戦で後半途中から出場。最後まで無失点で抑え、FC PORT初の全国大会出場を後押ししました。

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レギュラーとして貢献できなかったもどかしさ、悔しさ。出場を果たしたとはいえ、その想いは大会後に溢れ出ました。しかし彼の献身があってこそ、チームは全国大会出場を果たせたのです。

  

誇り高き「金魚のフン」

FC PORTを創設から支え続けている唯一の女性選手、ジュン選手。マネージャとしてもチームを陰で支える彼女もまた、このチームには絶対不可欠な存在です。ジュン選手は、体格差のある男性選手にも果敢に挑みました。そして大きく通る声で選手を鼓舞します。その迫力は相手選手も震え上がる(?)ほど。試合を見事なまでに引き締めました。

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f:id:okina_monkparakeet:20170418225447j:plain©JSFAジュン選手の強みは何と言っても集中力。ボールからは決して目を離しません。そして、隙を見計らってボールを奪い取る能力も、チームに強いアクセントを加えています。

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そんな彼女にも試練が。第3戦Espacio戦では、彼女の足にボールが当たり、不運なオウンゴールを献上。しかし、メンバーは今までのジュン選手の貢献をわかっています。当然ながら、彼女を責める人は誰一人いませんでした。オウンゴール直後は震えが止まらなかったというジュン選手ですが、その後のダルク戦でも集中を切らすことなく、終わってみれば全4試合わずかに失点1。関東大会後に相手選手から「金魚のフン」と呼ばれたことを誇らしく語るジュン選手。守備の要として、精神的な支えとして、チームから絶大な信頼を置かれる彼女もまた、MVP級の存在なのです。

 

有言実行の男 

大会の前日、メンバーに向けて一通のメールが届きました。「自分は日本代表になるという夢がある。明日の大会は得点王とMVPを取る。そのために力を貸して欲しい」並々ならぬ決意を胸に大会に臨んだのは、チームのエース、橋口選手。昨年の関東大会でも得点王を獲得し勝利に貢献した彼は、普段は物静かで穏やかな青年。あまり多くを語らない彼からの突然のメールに、メンバーも心揺さぶられるものがあったことでしょう。

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対戦チームから激しくマークされる橋口選手は、仲間に助けられながら得点を重ねていきます。

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結果はなんと、得点王とMVPのダブル受賞。大会前の決意を見事に形にして見せたのです。

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そして、喜びに沸く橋口選手のもとへ思いもかけぬ朗報。3週間後に行われる「デフフットサルチャレンジカップ」への出場の話でした。関東選抜チームで目覚ましい活躍をし、全国大会で上位に入れば、日本代表選出も夢ではありません。迎えた「デフフットサルチャレンジカップ」当日。韓国代表を相手に2ゴールを決め、日の丸の旗が見守る中、吼える橋口選手の姿がそこにはありました。

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有言実行の男ここにあり。10月に控えた全国大会にむけて、彼が再び語る想いは、必ず現実になると信じています。

キャプテンの圧倒的な安定感 

大会を通してチームに安定をもたらしたのがキャプテンでした。攻撃へのつなぎ、そして献身的な守備。なによりもその落ち着きが、チームを全国大会に導いたと言っても過言ではありません。

f:id:okina_monkparakeet:20170418230730j:plain©JSFA緊張感を強いられるこの大会で、どんな状況にも動じない彼の後ろ姿を見て、メンバーは平静さを保ち続けました。

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大会終了後、誰を責めることもなく「自分が一番ミスをした」と謙虚に語るキャプテン。そんな人柄だからこそ、メンバーは安心してついていけるのです。

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躍動する、次世代の若きエース

FC PORTの若きエースも、この日は躍動しました。自由に動き回り、相手の隙を突く動きは見事なまでにはまり、またどこまでも諦めない姿勢が何度も窮地を救いました。そして恵まれた体格を生かして、常に相手にボールを取られないように動き回る姿は圧巻でした。

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出場こそ叶いませんでしたが、関東選抜にも選ばれ、まだまだこれからの成長が楽しみな選手。チームの未来を握るのは彼かもしれません。

奮闘した選手たち

一人一人を取り上げることはできませんが、チームメンバーの連携なくしては、この結果は得ることができませんでした。幾度もピンチを救った頼れる守護神、途中片方の靴を壊すアクシデントに見舞われながら、監督の靴を借りてプレーをし続けたメンバーや、怪我で無念の途中交代を余儀なくされたメンバーも。そしてもちろん私の友人も奮闘しました。全国大会の切符は、出場したすべてのメンバーがチームの勝利のためだけに走り続け、掴んだ切符でもあるのです。

f:id:okina_monkparakeet:20170418181546j:plain©JSFA ゴールマウスを守り続け、1失点に抑えた守護神

f:id:okina_monkparakeet:20170418181628j:plain©JSFA 途中片方の靴が壊れ、監督の靴を借りて大会を乗り切りました

f:id:okina_monkparakeet:20170418182145j:plain©JSFA 自らの役割をきっちりと果たした浅井選手

チームを支えた控えメンバーたち

もちろん、奮闘したのは出場した選手だけではありません。ソーシャルフットボールの試合は、フィールドプレイヤー4人とGK1人、それに女性選手1人を加えた最大6名。今回FC PORTの登録メンバーは20人。今大会すべての試合を勝ちにいくため、戦術的に出場が難しいことが、大会前から分かっている選手もいました。それでも不協和音が出ないのが、このチームの強さ。中には、登録が間に合わなくてもベンチに入りたいと申し出る選手もいました。

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選手たちの中には、複雑な思いや葛藤もあったはず。しかしそれを表に出さず、チームのバックアップに徹した彼ら。文字通り全員でこの大会を切り抜けたのです。

チームから絶対的な信頼を得る監督の手腕実に1年近くも前から準備が進められてきた今大会。会場の選定や川崎市との交渉など、全て実行委員メンバーらによって行われていました。FC PORTを率いる佐藤監督もその一人です。チームを率い始めてから、ずっと目標の一つになっていた全国大会出場。

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様々な思いで迎えた試合当日、ゴール裏で黙々とゴールネットを張る佐藤監督がいました。そのひと結びひと結びに、どんな想いを込めていたのでしょうか。

試合前のミーティングでは的確かつ冷静に、選手に指示を与えます。逆に試合中は会場に轟くような大声で選手に指示を出す監督。時には大きな身振り、手振りを交えながら、その気迫は凄まじいものでした。

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一方でこんなシーンも。出場機会のない選手たちを弄り、和ませます。

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出場を果たせなかった選手たちへの気配りを忘れず、一つに結びつけた監督の手腕は見事でした。

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果たして、チームは関東大会を2位で突破。最終戦が終わった直後、脱力して膝をつく監督。張り詰めていた想いがすべてほどかれた瞬間だったのでしょう。興奮冷めやらぬなか始まった慰労会では、いつも以上に饒舌に、選手たちを弄りまくる佐藤監督の姿がそこにはありました。

私が8月にチームに帯同させてもらうようになってから約半年。「ぽるとカップ」での敗戦、ソーシャルフットボール体験会、記者会見など、短い期間ながらもいろいろなチームの姿を見させてもらいました。他の出場チームもいろんな想いや背景を抱えてこの大会に臨んだと思いますが、その中でも、このFC PORTの物語に触れることができたのは幸せなことでした。f:id:okina_monkparakeet:20170312105530j:plain

FC PORTは10月に全国大会が控えています。舞台は遠く、愛媛の地。全国各地の熾烈な予選大会をくぐり抜けてきた強豪が顔をそろえることになります。そこではどんなドラマを見ることができるのか。これだけのMVP級の選手たちが揃ったこのチームなら、全国大会の優勝は十分可能なはず。愛媛の空に掛け声を響かせ、全国大会という舞台に大きく帆を張るFC PORT。円陣を組む彼らの姿を想像しながら、このエントリーを締めくくりたいと思います。

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「PORT!FUTSAL!」

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 (了)

※JSFA・日本ソーシャルフットボール協会より写真をご提供いただいております。写真の無断転載及び使用は固くお断りします。 

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「パラキートのパラスポーツ日記」では、一人の障害者サッカーファン「パラキート」が自分の脚でおもむき、自分の目で観て、自分の耳で捉え、自分の指で撮り、自分の頭で考えたママを発信していきます。

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『"Pick"=掴み取る、選ぶ」と「"Phat"=格好いい、イカした』を組み合わせた造語を屋号に掲げる「PickPhat」。クライアントの意思を尊重し、選び抜いてイカしたサイトをクライアントと共に作り上げます。代表の加藤高明氏は電動車椅子サッカーチーム「Yokohama BayDream」の選手としても活躍中。

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