歴史的な1日〜デフフットサルチャレンジカップ①国内初大会

  • サッカーの現場から

その日、歴史が動いた

2017年3月16日。大田区総合体育館

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この日、この会場において歴史的な大会が開催されました。『デフフットサルチャレンジカップ』。

deafchallengecup.com

デフ(聴覚障害フットサル日本代表にとって、日本デフフットサル史上初、国内での国際試合。その勇姿を国内のファンに直接見せることができるまたとない機会です。

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相手はライバル国韓国代表チーム。歴史的な日の対戦相手としては申し分ない相手です。

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またこの日、本来出場予定だったウズベキスタン代表チームのキャンセルにより、急遽ソーシャルフットボール関東選抜チームとのエキシビションマッチが組まれました。デフフットサル日本代表は、過去に知的障がい者フットサル日本代表エキシビションマッチを行っていますが、国内で異なる障害カテゴリが対戦することは、昨年4月に日本障害者サッカー連盟(JIFF)が設立されてからはおそらく初めてのことになります。異なる障がいサッカー同士の対戦は、とても意義のある試みです。

知的障がい者フットサル日本代表とのエキシビションの様子

http://jdfa.jp/news/deaffutsal20150722_exhibition_match/

日本障がい者サッカー連盟(JIFF)

JIFF: 一般社団法人 日本障がい者サッカー連盟

日本代表招集メンバーは前回記事を参照のこと。 

okina-para-sports.hateblo.jp

両国国歌が流れ、これが国際試合であることを実感します!

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前半

日本代表のキックオフで試合は始まりました。

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日本のスタメンは次の通り。

1#桶口智弘(GK)、3#設楽武秀、5#船越弘幸、6#上井一輝、7#東海林直広

前半序盤はほぼ日本代表ペース。そして試合開始1分も経たないうちに、日本代表が国内初得点をマークします。決めたのはベテラン5#船越選手。7#東海林選手が落としたボールを、フリーの5#船越選手が落ち着いて流し込みます。ホームで決めた初得点は格別でしょう。

f:id:okina_monkparakeet:20170323125225j:plainチームメイトの祝福を受けて喜びを表す5#船越選手。観客席から大声援の「フ・ナ・コシ!」コール!

出鼻を折られた韓国代表。1点を取り返しにきますが、ペースを握るのは経験値に勝る日本代表。前半5分まではほぼワンサイドゲームに。

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幾度も相手ゴール前に迫る日本代表!韓国代表は完全に釘付け状態

時折カウンターを浴びますが、GK1#桶口選手がゴールを割らせません。

f:id:okina_monkparakeet:20170323125622j:plain安定感抜群のGK1#桶口選手。観客席からのコールは「オ・ケ・グチ!オ・ケ・グチ!」

前半7分には、3#設楽選手のコーナーポスト付近からの落としを、後ろから走りこんできた5#船越選手が惜しいミドルシュート。その後も惜しいシーンが続き、終始日本ペースで試合は進んでいきます。

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f:id:okina_monkparakeet:20170323133124j:plainベテランが落ち着いてボールを回し、隙をついて若手が急襲!

しかし、徐々に韓国代表のペースが上がってきます。前半10分、日本のエリア内でボールを奪った韓国代表がそのままシュート。角度の浅いシュートはGK1桶口の脇をすり抜け、ネットを揺らします。試合は1-1の振り出しに。

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同点に追いつかれた日本代表でしたが、ホームということもあって慌てません。途中交代の8#吉野選手も激しくポストを叩く惜しいシュートを放ち、むしろ勢いづきます。一方の韓国代表は強いあたりでボールを奪いにきます。

f:id:okina_monkparakeet:20170323134802j:plain日本代表の点取り屋、8#吉野選手。韓国代表も徹底マーク!

堪える日本代表は逆に韓国代表にファールを許し、FKを与えてしまいます。

f:id:okina_monkparakeet:20170323134826j:plainベンチからも控えメンバーから指示が飛びます

この危機を救ったのはGK1#桶口選手。耳が聞こえない選手に対し、大きな身振りと身体を掴んでの移動で、DFのポジション修正を図ります。

f:id:okina_monkparakeet:20170323134410j:plain8#吉野選手をグイグイ引っ張るGK1#桶口選手

前半10分。日本代表は8#吉野選手が韓国GKの手を弾く強烈シュートで2-1。

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しかし、日本はこの時点で5つ目のファールを取られ、次のファールを犯すと第二PKスポットからのPKを与える危険な状況に。ファウルを避けるため、微妙に甘くなった日本代表のディフェンスの隙をついて、韓国が再び同点とし2-2。日本優勢なだけに、早いタイミングで5つのファウルを犯すのはちょっともったいない…。

その後日本は韓国を引き離しますが、直後に6つ目のファウルを献上。PKによる得点を許してしまいます。試合はシーソーゲームの様相を呈してきました。

f:id:okina_monkparakeet:20170323135027j:plainディフェンスではやや慌てた日本代表。ちょっともったいない失点でした

f:id:okina_monkparakeet:20170323134942j:plain11#高橋恭平選手のドリブル突破

前半残り1分を切った時でした。10#土屋祐輝選手のドリブル突破に、韓国がたまらず危険なタックル。審判から示されたのはレッドカード。韓国は失点するか2分経過するまで、フィールドプレイヤー3人で凌ぐことに。

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f:id:okina_monkparakeet:20170323130714j:plain迷わず示されるレッドカード

その後も日本は前半終了まで攻め続けます。

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f:id:okina_monkparakeet:20170323133658j:plain長身の10#土屋選手。ポストプレイヤーとしてもアタッカーとしても積極的に動きます

そして前半はそのまま、8-4というスコアで終了。8#吉野選手が4点、6#上井選手が2点、5#船越選手、7#東海林選手がぞれぞれ1点。おおよそフットサルらしくないスコアになりましたが、後半はさらに怒涛のゴールラッシュが待っていました。

後半

前半の退場により、フィールドプレイヤー3人でスタートした韓国に、日本代表が襲いかかります。

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f:id:okina_monkparakeet:20170324102410j:plain後半のゴールラッシュ、口火を切ったのはやはりこの人、5#船越選手!

韓国GKの拙いセービングも相まって、面白いように点が積み上げられていきます。試合展開を追いきれないくらいのゴールラッシュ!

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f:id:okina_monkparakeet:20170324102421j:plain前半大爆発だった8#吉野選手、後半も勢いは衰えません。

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f:id:okina_monkparakeet:20170324102427j:plain6#上井選手2#山森選手も得点をマーク

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f:id:okina_monkparakeet:20170324105349j:plain足裏でのドリブル、華麗なステップ。コーナーからの連携。日本代表の技術力を随所に魅せます!

韓国代表も体を張ったディフェンスで、意地を見せます。

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後半2得点を挙げた10#土屋選手、前線に張り続け、何度も韓国ゴールに迫ります。

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5#船越選手、8#吉野選手、10#土屋選手がそれぞれ2点。2#山森選手、6#上井選手、7#東海林選手、4#吉岡選手、11#高橋選手がぞれぞれ1点。終わってみれば合計19-5という圧勝劇。野球でも見ることのできないスコアに、会場もどよめきが沸き起こっていました。

f:id:okina_monkparakeet:20170324105313j:plain大敗に肩を落とす韓国代表。しかし日本サポーターは彼らに「大韓民国コール」を送っていました

日本代表は組織力でも技術力でも韓国代表に格の違いを見せつけ、完全に戦意を喪失させていました。今後W杯予選で争う相手に「日本強し」の印象を植え付けたことは大きいでしょう。

一方で課題もありました。この日、日本は登録メンバー12人に対して、韓国代表は7人。韓国代表はソーシャルフットボール関東選抜との連戦や登録メンバーの少なさもあって疲労が溜まった状態。厳しいことを言えば、代表チームの強化という意味では、この日の韓国代表に対しての大勝は「参考試合」。前半のうちに6ファールを犯したことや、リスタートでの失点など、むしろ5失点したことで、新しい課題が見つかりました。それは選手たちも当然感じていることでしょう。

f:id:okina_monkparakeet:20170324105935j:plainトロフィーを掲げる7#東海林選手

f:id:okina_monkparakeet:20170324110021j:plain両手を掲げ、くるくる回して観客への感謝を伝える選手たち

スペクタクルな試合展開を通してデフフットサルの魅力が、観客にも十分伝わったのではないでしょうか?大勢の観客の目の前で試合ができたことは、日本代表にとって何より大きな収穫でした。一方の韓国代表は、国内のフットサル事情が日本とは大きく異なり、まだまだ発展途上。チーム作りは遅れ、練習不足も露呈させました。しかし、この日の大敗を糧にして、日本代表にとって強力なライバルになるに違いありません。

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DEAF FUTSAL CHARENGE CUP RESULT

デフフットサル日本代表 19-5 デフフットサル韓国代表

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試合を支える要素

さて、デフフットサルといってもルールは通常のフットサルとほとんど変わりません。しかしよーく見てみると、随所に聴覚障害者のための工夫がちりばめられていました。競技者の立場に立って観察すると、より深く競技を知ることができます。

ハンドサイン

タイムアウト、交代、ポジショニングなど、ベンチからの指示が必要なシーンでは、耳の聞こえない選手に対してハンドサインが使われます。試合に集中していてベンチの様子がわからない選手に対しては、控えメンバーが全員で「ドン!ドン!ドン!ドン!と足を踏みならして指示に気づかせていました。

f:id:okina_monkparakeet:20170323100011j:plainタイムアウトの「T」の字を描く(健常者サッカーでも同じサインが使われます)

f:id:okina_monkparakeet:20170323100007j:plain8#吉野選手と2#山森選手の交代シーン。控えメンバーが両手で8本の指を掲げています

f:id:okina_monkparakeet:20170323101110j:plainFIFA規定にある「タイムアウト要求のための用紙」。特別に聴覚障害者のために、というものではありませんが、こうしたサイン類も意思疎通には便利ですねフラッグ

フットサルの場合、通常は審判がフラッグを持ちませんが、デフフットサルの場合は審判がフラッグを携行して試合に臨みます。ファウルなどで試合が中断した場合に、頭上にフラッグを掲げ、選手が気がつかない場合には激しく振ります。こうすることで、試合進行を円滑に行うのです。

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手話通訳

韓国と日本では手話が異なります。そこで、今回は手話通訳が大活躍しました。手話通訳の方は緑が韓国の手話、ピンクが日本の手話、黄色が国際手話(※人工的に作られた手話)というふうに色分けされたTシャツを着ています(中村さんご指摘ありがとうございました!)。胸には、緑が「韓国手話通訳」、ピンクが日本手話通訳」黄色が「国際手話通訳」(いずれも直訳)で書かれています。

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f:id:okina_monkparakeet:20170323095617j:plain韓国代表のインタビューでは、日本語の質問を日本の手話になおし、それをさらに韓国の手話に置き変えるシーンも

f:id:okina_monkparakeet:20170323094959j:plainJDFA(日本ろう者サッカー協会)会長の挨拶ももちろん手話

f:id:okina_monkparakeet:20170323095007j:plain韓国国歌斉唱時も、選手と観客それぞれに手話通訳がつきます

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選手の心に響け!サポーターの声援

会場は平日の夕方にもかかわらず大勢の観客が会場を訪れていました。デフ(聴覚障害者)フットサルということもあって、会場には多くの聴覚障害者の方たちも来場しており、あちこちで手話でのコミュニケーションを目にしました。国際試合ということもあり、日本代表を応援する人たちの姿もありました。この方はモンテディオ山形サポーター組の布施さん。彼自身もろう者で、この日のために山形から駆けつけたそうです。選手へあてたメッセージ入りの日の丸の旗を掲げ、小さなハンドマイクを片手に、声と手話で観客にむかって結束と声援を呼びかけていました。

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身につけているのはデフサッカー代表ユニフォーム。JDFAのエンブレムが印象的です。彼も聴覚障害を持っているので、声援の音程は大きく外れ、リズムもバラバラ。でもそんなことはお構いなし。彼の熱のこもった応援は、観客席をすっかりホームの空気に変えてくれました。

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また同じ会場にはこんな人も。ちょんまげをつけて世界中で代表を応援していることで有名な「ちょんまげ隊 ツン隊長」こと角田さん。東日本大震災を機に「smile for Nippon」という団体を立ち上げ、今現在も被災地支援に尽力し続けている方でもあります。

Smile for Nippon | フットボールのチカラで日本を笑顔に!

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f:id:okina_monkparakeet:20170322202139j:plainよく通る声での大声援。聞くだけでこちらもワクワクしてきます

f:id:okina_monkparakeet:20170324093300j:plainこの横断幕も彼が持参。最後の絵文字に人柄がにじみ出ますね

そして、以前電動車椅子サッカーの特集でご紹介したサッカードキュメンタリー映画監督、中村和彦さんとともに東北復興支援のドキュメンタリー映画「MARCH」を製作。

ドキュメンタリー映画「MARCH」 | 東北復興支援 in 愛媛

今年の2月にはその「MARCH」が、International Film Fest LONDONで最優秀外国語ドキュメンタリー賞を受賞しました。会場には中村映画監督の姿もありました。

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聴覚障害の子供達と一緒に大きな声援を送るツン隊長。聴覚障害者にも応援しやすい手拍子を考えたり、交代選手の名前を確認しながら、チャントを即興したり。さすが世界中で応援してきたツン隊長、競技によって応援の仕方も工夫が必要な障害者スポーツだけあって、彼のノウハウは大きなヒントになりそう。

会場は彼らの声援のおかげもあって熱気に包まれました。声援は選手の耳には聞こえなかったかもしれませんが、きっと声を枯らして応援したサポーターの熱い気持ちが伝わったはず。また、この日の試合の模様はFacebookを通じてLIVE配信されました。会場に来られず、配信で試合の様子を観ていた方も多いのではないでしょうか?それは会場で入念なセッティングをしていた彼らの貢献によるものです。

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会場には大会スポンサーの補聴器メーカーの展示ブースもありました。

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会場ではデフサッカー推進のリストバンドも限定販売されていました。もちろんパラキートも購入。

試合終了後は、選手たちが出入り口で観客を送り出していました。その中には、先日フットサルでご一緒させていただいた10#土屋選手と8#吉野選手の姿も。

f:id:okina_monkparakeet:20170323095651j:plain10#土屋選手。「また一緒にフットサルやりましょう!」と言ってくださいました!ワクワク

f:id:okina_monkparakeet:20170323095723j:plain8#吉野選手。この日は6得点の大爆発

障害の種類を越え、一つの喜びを共有しあえる、そんな心地よい空間がそこにはありました。国内でこのような大会が多く行われれば、より多くの人が関心を示し、応援してくれるはず。その応援の後押しを受けて、どんどん国際舞台で活躍してほしい。そのためにも、再び国内でデフフットサル国際大会が開かれることを願ってやみません。

デフフットサル・デフサッカーの活動をもっと知りたい方は、ぜひこちらにアクセスしてくださいね!

http://jdfa.jp/

f:id:okina_monkparakeet:20170324111235j:plainお疲れ様でした! 

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②に続く 

画像の無断掲載・無断流用を固くお断りいたします。

 

パラキートのパラスポーツ日記とは

「パラキートのパラスポーツ日記」では、一人の障害者サッカーファン「パラキート」が自分の脚でおもむき、自分の目で観て、自分の耳で捉え、自分の指で撮り、自分の頭で考えたママを発信していきます。

記事を通して、競技を取り巻く人・環境・社会問題に触れ、この魅力的な世界に関心を寄せ、寄り添ってくださる方が増えることを願っています。

プログラム制作・HP管理/「PickPhat(ピックファット)」

『"Pick"=掴み取る、選ぶ」と「"Phat"=格好いい、イカした』を組み合わせた造語を屋号に掲げる「PickPhat」。クライアントの意思を尊重し、選び抜いてイカしたサイトをクライアントと共に作り上げます。代表の加藤高明氏は電動車椅子サッカーチーム「Yokohama BayDream」の選手としても活躍中。

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