誰よりも強く〜第20回南関東テコンドー選手権大会観戦記②

  • サッカーの現場から

スポーツ好きが逆境を救う

静寂の中でのデモンストレーションが終わり、再び会場は活気に満ち始めました。

午後からはさらに上位のクラスの試合がスタート。

いよいよ、伊藤選手の出場する「キョルギ(パラ部門)」の試合が始まります。

その舞台に姿を現した伊藤選手。集中力を高め、赤いプロテクターに身を包み、

コーチとウォーミングアップを行う姿に、テコンドー体験会の時に見せた

柔和な面影はなく、その表情はまさに闘志漲らせる格闘家の風貌でした。

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ここで伊藤選手の経歴に触れておきたいと思います。

伊藤選手は一昨年の4月に事故で右腕を失いました。しかし、退院してからわずか

2週間でアンプティサッカーを始め、その後、パラテコンドーと出会います。

格闘技経験がないにもかかわらず、誘いを受けると躊躇なく即答。

10月にアンプティサッカーのGKとして日本選手権に参加した時には、パラテコンドー

アンプティサッカーに専念するためにご家族と共に関東へ転居していたそうです。

事故でハンデキャップを負ってからわずか1年あまり。右腕を失うことは精神的にも

大きな衝撃であり、普通に考えれば立ち直るまでには相当の時間がかかるものですが、

大好きなスポーツを再開することで、前向きな気持ちを取り戻していったそうです。

その気持ちの強さは、並大抵のものではありません。

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1試合目、開始!

さて、この大会のパラキョルギでは伊藤選手を含め3名の選手がエントリー。 

先ほどのプムセで華麗な技を披露したダブルエントリーの選手と、

これからが期待される若手選手が、3名総当たりで優勝を争います。

伊藤選手は日本代表として、この1年間海外を中心に転戦している身。

今大会の優勝は最低限のノルマとなります。

試合が始まります。

1回戦は左腕欠損の選手。地元横浜の道場で修練に励み、将来の期待を背負う、

若さと勢いが武器の選手です。

その前に競技と勝敗について触れておきましょう。

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試合は2分を3ラウンドこなします。間の休息は1分間。

勝敗はポイント制。技によって決められたポイントを重ね、より多くポイントを

獲得した方が勝利します。

そのほか、倒れた相手が10カウント以内に起き上がり攻撃姿勢を取れない場合は

「K.O(ノックアウト)」審判や相手セコンドが試合を何らかの理由で中断した場合は

T.K.Oテクニカルノックアウト)」となります。

3ラウンド終了の時点で同点の場合はゴールデンポイントラウンドという

1点先取で勝敗が決まる延長戦を行い、それでも決まらない場合は主審のジャッジで

最終的な勝敗が決まります。

そのほか、

・相手選手が反則累積5点になると失格

・相手選手の途中棄権での不戦勝

・第2ラウンド終了時点、もしくは第3ラウンド中に点差が12ポイント開くと

その時点で得点の多い方が勝利

以上の条件でも勝敗が決まります。

www.ajta.or.jp

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私はルールに乏しいのですが、勉強の意味も込めて解説をつけてみました…。

(伊藤選手、テコンドー関係者の方々、間違っていたらごめんなさい!)

第一ラウンド

試合開始直後、ステップを踏みながら互いに間合いを図る両選手。

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伊藤選手(赤)は序盤から攻め込んでいきます!

(たぶん)モントントリチャギ(中段回し蹴り)。有効打が決まれば1点の加点です。

しかしここでは相手選手が防御しているため、(たぶん)有効にはならない(はず)。

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(たぶん)ティフリオフリギ(飛び後ろ回し蹴り)!入れば4点の大技。

4連続写真でご覧ください。

パラテコンドーの場合、頭部への攻撃は禁止されているので、

この場合は得点にならない(かもしれません)。

少しでも隙を見せると瞬時に蹴りが飛ぶ、全く気の抜けない競技です。

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守備に回っては、華麗なバックステップで相手選手の蹴りをかわしていきます。

これは(たぶん)中段回し蹴り(モントントリチャギ)をかわす瞬間。

そして、蹴りを繰りだした後の隙にカウンターを当てるのです。

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また、時には身を呈して蹴りを押さえにいきます。左手をタイミングよく差し出して、

相手の蹴りをブロック!伊藤選手は右手が使えないため右胴が狙われやすくなります。

なので、瞬時の判断が非常に重要になってくるのです。

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相手選手も果敢に攻めます。しかし、そこは伊藤選手の経験が勝るところ。

その攻撃を巧みにいなしていきます。

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直線的な蹴りを放つ伊藤選手。不意打ちのように瞬時で相手に届く蹴りも有効です。

(たぶん)チルギと呼ばれる突き蹴り。

サッカーで言うところのトゥキックみたいなものでしょうか。

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ひるんだ相手に畳み掛けるように突っ込んでいく伊藤選手。付け入る隙を与えません。

手数の多さは、そのまま審判の心象にもつながっていきます。

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ここで第一ラウンド終了。ほぼ伊藤選手の一方的な展開で第一ラウンドを終えます。

第二ラウンド

1分間のインターバルを終え、第二ラウンドへ。 

相手選手は休憩中も腰に手を当てて、すでに疲労困憊といった様子。

伊藤選手の小気味好い攻撃に、体力をかなり消耗しているようです。

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それでも、勇敢に突っ込んでいく相手選手。

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しかし伊藤選手は相手選手の疲れを見抜いているのか、さらに手数を増していきます。

だんだんと押され、たじろぐ相手選手。後ろに下がるシーンが目立ってきます。

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そして、あっという間に2分間が終了。

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セコンドのコーチからアドバイスを受ける伊藤選手。表情に少しの曇りもありません。

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第三(最終)ラウンド

第三ラウンド開始。伊藤選手はここで勝負を決めにいきます。

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伊藤選手のバックステップを追いかける相手選手が踏み込んだ所で、

いきなり回し蹴りを繰り出します。

シャッターを押すタイミングを計るのが難しい!連写する指がつりそうです!

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そしてさらに畳み掛ける!!

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相手の攻撃をいなしつつ…

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仕掛ける!

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相手選手が果敢に仕掛けるシーンもいくつか見受けられましたが、経験値に勝る

伊藤選手が順当に勝利。とっさのことで勝敗のポイントを記録できず…。

しかし、とても迫力のある試合を見せていただきました。

相手選手もまだまだ若く、これからが期待される有望選手です。

この経験はとても貴重なものになると思いますし、選手層の薄いパラテコンドーの

世界においては、いずれ伊藤選手を脅かす存在になっていくことでしょう。

今から楽しみですね!

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片腕が使えないことで、半身が防御できなくなるのがパラテコンドーのハンデ。

しかしその分、攻撃を受けないようにフットワークが重要になってきます。

上級者だとガツガツとぶつかり合うような攻撃的なシーンが多くなりますが、

健常者の試合よりもより駆け引き的な要素が多く、心理的な緊張感を楽しめるのが

パラテコンドーの特徴かもしれません。

さて、次の対戦相手は、先ほどプムセで美技を披露した選手です。

キョルギではどのような戦いを見せてくれるのでしょうか?

③へ続く

パラキートのパラスポーツ日記とは

「パラキートのパラスポーツ日記」では、一人の障害者サッカーファン「パラキート」が自分の脚でおもむき、自分の目で観て、自分の耳で捉え、自分の指で撮り、自分の頭で考えたママを発信していきます。

記事を通して、競技を取り巻く人・環境・社会問題に触れ、この魅力的な世界に関心を寄せ、寄り添ってくださる方が増えることを願っています。

プログラム制作・HP管理/「PickPhat(ピックファット)」

『"Pick"=掴み取る、選ぶ」と「"Phat"=格好いい、イカした』を組み合わせた造語を屋号に掲げる「PickPhat」。クライアントの意思を尊重し、選び抜いてイカしたサイトをクライアントと共に作り上げます。代表の加藤高明氏は電動車椅子サッカーチーム「Yokohama BayDream」の選手としても活躍中。

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