- サッカーの現場から
渋谷エリアで開催された「超福祉展」
昨年の話になりますが、渋谷のヒカリエを中心に駅前エリア周辺で開催された
ピープルデザイン研究所主催「超福祉展」に行ってきました。
超福祉って何?という方はこちら↓
障害者スポーツとは直接的な繋がりはないイベントなのですが、
ちょっと関連もありそうなところがあるのでご紹介します。
超福祉展を知ったきっかけは、パラキートブログ開設のきっかけを作ってくださった、
まろえもんこと矢嶋志穂さん(以下まろさん)からのお誘いでした。
まろさんは車椅子ユーザーで、とてもアクティブな方です。
現在は活動を休止されていますが、パラ競泳ではロンドンパラリンピック出場も
視界に入っていたほどの実力者でもあります。
去年は電動車椅子サッカー、パラ陸上、車椅子バスケットボール大会、
また毎日新聞社のリオパラ報告会など、いろいろなイベントにお誘いいただき、
障害者スポーツに対する見識を広げてくださる存在であると同時に、
身の回りに障害者がいなかった自分にとっては初めてとなる、
車椅子ユーザーと一緒に行動をする経験もさせていただいています。
そんなまろさんがトークショーに出演されるということで、
渋谷駅ハチ公広場前の会場にお邪魔してきました。
右から司会進行役の須藤シンジ氏(ピープルデザイン研究所代表理事)
坂巻善徳a.k.a.sense氏(美術家、有限会社senseseeds代表)
田中聡一郎氏(ヤマハ発動機デザイン本部デザイン推進部長)
そして「まろえもん」こと矢嶋志穂氏。
まろさんは発達障害の方をサポートするWebサイト「LITALICO発達ナビ」の編集を
担当する傍ら、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、街中や競技場の
インフラ調査や障害を持った外国人観光客への対応など、バリアフリーの現状把握と
改善を目的とした活動にも精力的に参加されています。
今回のテーマは、彼らが重点的に活動している川崎市の取り組みなどをもとに、
ダイバーシティ都市(多様性を受け入れられる都市概念)を作っていくために
私たちができることはなんなのか、というお話でした。
実は、トークショー会場にはいくつか「パーソナルモビリティ」と呼ばれる次世代移動用ビークルが展示されていました。
まず、ずらりと並べられたパーソナルモビリティの数々に目を向け、
それを切り口にトークショーがスタート。
デザイン的にも優れ、誰もが乗ってみたくなる「イケてる」パーソナルモビリティの
普及が、「車椅子=障害者」「歩行=健常者」という概念を消し去り、
障害の有無に関わりなく誰もが生活しやすい街に変わっていくのではないか、という須藤氏。
ヤマハ発動機でデザイン推進部長を務める田中氏は、こうしたデザイン性に優れた
ビークルを作ることによって、もっと一般の方が興味を示してもらえることが、
福祉に関心を持つこと、ひいては真のダイバーシティにつながるのではないか、
そのためには複数の企業が連携し、社会活動を先導していくことが非常に重要である
と期待を込めて語られていました。
日本は社会的弱者に優しい国ではない
トークショーは、やがて現在の社会における障害者や高齢者など福祉の問題点について
の話題へと移っていきます。
車椅子ユーザーとして日常的にこうした問題点と日々格闘しているまろ氏が、
ご自身の経験を踏まえて話をしてくださいました。
例えば、通勤などの混雑時に長蛇の列を作る駅のエレベーター。
通勤で急ぐわけでもなく、足が不自由なわけでもなく、それでもすしずめ状態になって
でもエレベーターを利用しようとする健常者たち。
その傍らで、彼らに先を譲らざるを得ない車椅子ユーザーの立場を何度も経験し、
日本は決して社会的弱者に対して優しい国ではない、と言います。
また多目的トイレについても認識が不足しているそうです。
トイレが開かないからといって数少ない多目的トイレを使う方も多くいますが、
排泄困難を伴う障害者にとっては非常に大きな問題です。
また日本では、誤った認識のもと社会的弱者への寛容さが広がっています。
例えば、多くの方が誤解されているのは車椅子ユーザーへの対応。
坂道や電車の乗り降りの際に、親切心で車椅子を押したり引いたりする方がいますが、
当事者にとってはとても怖いことなのだそうです。
私もまろさんと行動するときは、全くと言っていいほど車椅子には触りません。
タクシーや電車の乗り降りも、声をかけられない限りは手伝わないようにしています。
そして、一時期話題になった視覚障害者への対応。
全盲(完全に視力が失われている)の方も、弱視(視力がかろうじて残っている)方も
視覚障害者と一言でくくられることが多いですが、障害の度合いは様々です。
その認識が不足しているため「見えているのに白杖を持っている」
「社会的弱者のふりをしている」などと言われ、辛い思いをしている方も居ます。
福祉の発達しているフィンランドなどを始め海外を見てみると、
必ずしも福祉的インフラが発達していない国々も、社会的弱者について学ぶ場を設け、
日常的に接点を増やし、また平等な扱いをすることが当たり前になっている国は
比較的多いようです。なので、上記のようなトラブルはあまり聞かないと言います。
2020年東京オリンピック・パラリンピックまであと3年あまり。
それまでに変わるべきは街のインフラ以前に、社会的弱者への認識であり、
それに気がついてもらうためにも闘っていきたいという思いを、
まろ氏のお話の中に感じました。
日常生活をクリエイティブに
アーティスト坂巻氏からは、日常生活をクリエイティブ活動だと捉えれば
変わってくるものがある、というお話がありました。
それを体現化しているのが、川崎市の地域活動からスタートした「カワサキノサキ」。
川崎市内の農業従事者と連携した「武蔵小杉マルシェ」を始め、「農園フェス」
「川崎防災キャンプ」など、生活の中からクリエイトされた様々な取り組みを通して、
まちづくりのあり方を考えていくクリエイティブ集団です。
その活動の中に、真のダイバーシティを実現するヒントがあるのではないか、と
田村氏は語っていました。
まろ氏も、こうした活動に積極的に参加しながら、障害者だからといって必要以上に
守られたり、逆に内向的になる必要はないということを身をもって示し続けています。
田村氏が川崎の代表を務めている街中美化活動「グリーンバード」への参加、
唯一人車椅子ユーザーとしての川崎の市民マラソン参加など…。
greenbird(グリーンバード) – ゴミ拾いボランティアのNPO
一人でも多くの人が気づき、意識を変えていくこと。そこから社会は変わっていく。
インフラ整備も大切だけれど、もっと簡単に、そして今すぐできることです。
2時間に亘るトークショーでしたが、晩秋の寒さを感じさせない、とても内容の濃い
時間を過ごすことができました。感謝。
日本では福祉について当たり前に語れる場が少なく、また機会もほとんどありません。
始まりは「かっこいい」「乗ってみたい」からでも良いし、
もっと福祉を語る機会が増えても良いのではないかとも思います。
他人事ではなく、いずれ私たちも当事者になるのですから。
体験会場は大盛況!
その後トークショー会場のそばにある宮下公園の体験会場に足を運んでみました。
そこには「パーソナルモビリティ」や未来型の車椅子などが展示され、
実際に試乗もできるとあって、多くの人々が見学をしていました。
足を使わない手こぎの三輪車。
スクーターのような駆動機付き4輪車。