- サッカーの現場から
ぽるとのメンバーとして
失意のぽるとカップから一ヶ月。
あの敗退のショックを拭い去るかのような、穏やかな日の光が降り注ぐグラウンドに、
サッカーウェアを着てたたずむパラキートがいました。
周囲からは威勢の良い掛け声。今日はFCぽるとの練習日です。
参加資格に満たなかったため、ぽるとカップには
メンバーとして登録できなかったのですが、練習や親善試合は出場可能。
ということで、晴れてFCぽるとの一員となりました。
目標はあの青いユニフォームを着て、まずは1点を取ること。
そうはいっても、ハイレベルなFCぽるとのレギュラーメンバーの座を
掴むことはちょっと難しいかもしれませんが…。
FCぽるとの練習に初めてお邪魔させていただいたのは、夏の暑い盛り、8月前半のこと。
相棒の体験練習についていく形で、ラポールグラウンドに足を踏み入れたのが最初でした。
まだブログを始めたばかりの自分は、ちょっとした記者気分。
何の気なしにカメラを持っていったのですが、浅はかでした。
精神障害者フットサルという特殊なカテゴリでもあり、素性を隠したい選手もいる
ということにまで考えが至らず、
チーム全体に不安を抱かせるという、大失敗をしてしまったのでした。
その時、あるメンバーの方にかけられた言葉は、
「写真を撮ることより、まずはみんなとボールを蹴ってみたほうが、
精神障害者フットボールのことを理解してもらえると思いますよ」。
それを聞いてから、チーム練習に参加できる時は積極的に参加しようと決め、
カメラではなくボール、一脚ではなくサッカーシューズに持ち替えました。
そして、この日4回目の練習参加(うち2回は見学&ポルトカップへの帯同)となったわけです。
楽しく、そして真剣に
実は私は、14年続くフットサルチームに創設当時から籍を置いています。
発足から最初の5〜6年は「失敗しないこと」「負けないこと」ばかりに気を取られ、
気分障害を抱え何をやっても自分自身に自信が持てなかった時期でもあり、
始終イライラしっぱなし。怒鳴って怒って、チームの雰囲気を悪くしていました。
それを大きく変えたのは「楽しくやりたい。楽しくないとやってる意味ない」の一言。
それ以来、 自分からも少しずつポジティブな掛け声と笑いを大事に、
プレーをすることを心がけてきました。それは時には過剰すぎるほどに。
でも、そうやって少しずつ、みんなと打ち解けていくリハビリをしていったのです。
だからというわけではないですが、
メンバーとの練習に参加してすぐに、先ほどの言葉の意味を理解しました。
「今のでいいですよ、インコさん!」「いい動きしてます!」
次々に飛んでくる激励の言葉。
初老に差し掛かっている自分が、お世辞にもチームにとって効果的な動きをしている
とは言えないのですが、自分にメンバーがどんどん声をかけてくれるのです。
FCぽるとは「誰でも、どんなプレーでも受け入れ、許容する」空気をすでに
作っていて、ゲームに入り込むのにそれほど時間はかかりませんでした。
FCぽるとがチーム発足からどのような経緯をたどってきたかはわかりません。
しかし、一つの目標に一緒になって取り組むことに罵声や叱咤など必要ないことを、
皆が自らの経験でわかっているように感じました。
そんな私も気がつくと、みんなからの「いいね!」「ナイス!」の声が聞きたくて、
疲れるのも忘れてボールを追いかけています。
そして自らも、自然と「いいね!」「ナイス!」の声を張り上げていました。
皆が互いに思いやること。
これは、ややもすれば当たり前のことと言われるかもしれません。
でも、ソーシャルフットボールではゴールよりも何よりもそれが大事。
自分の中に一つの仮説が生まれました。
それを証明するために、まだまだ顔も名前も覚えてもらえていないけれど、
このチームで選手として、スタッフとして関わってみたい、そう思い始めています。
精神障がい者フットサルの最終目標とは?
もともと精神障がい者フットサルは、心の病に対する治療を目的に始まったスポーツです。
コミュニケーションの機会増加や、個人判断力の強化、
そして声を出し、一つ一つのプレーに自信を持つことによる精神的高揚。
社会復帰に近づくための治療法としてサッカーは適しているのです。
そして、数ある障害者サッカーの中で唯一「寛解(完全に回復すること)」する
可能性があるスポーツでもあります。
つまり、症状が改善されて障害者認定が取り消されること、
それが言うなれば、選手にとって精神障がい者フットサルの最終目標でもあります。
実は、国内の認知の高まりに合わせ、ここ数年で競技人口が急増しています。
その数1500人以上、チーム数にして130超。
昨年には日本代表チームが新設され、第一回世界大会では日本が優勝を果たしました。
競技レベルが向上するにつれ、選手たちにとって競技に集中できる環境を作るために、
運営、コートの整備、スポンサーの獲得など、組織的な取り組みを行うチームも増えています。
しかし成績を重視するあまり、逆に選手の社会復帰を阻害する危険性も孕んでいるといえます。
そのジレンマと戦いつつ、目標に向かって各チーム活動を続けているのが現状です。
FCぽるとは原則「当事者運営」。外野はなるべく口を挟みません。
実は、いくつかのチームではこの「当事者運営」を行っています。
これは「出欠をとる」「大会に申し込む」「決まりごとを守る」など、
社会生活に必要なことをチーム内で実践することで、リハビリにもなるという考え方からです。
来年2月の関東大会、そしてその先の全国大会を見据えて、
残り少ない時間のなかで、いかにチームの力を引き上げていくか。
そして、彼らが障がいの有無に関係なく、誰とでも楽しく、
そして真剣にボールを蹴り合うことができる日を目標にしながら、
FCぽるとの試行錯誤は、まだまだ続きます。
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(了)