ボールはトモダチ!〜精神障がいフットサル(ソーシャル・フットボール)って?

  • サッカーの現場から

ソーシャル・フットボールってなに?

ソーシャル・フットボール

直訳すると「社交(社会)的なフットボール」になります。

発祥の国イタリアでは、性別や年齢、犯罪歴を問わず、誰でも参加できる競技であり、

社会的なマイノリティの垣根をなくすためのスポーツとして位置づけられています。

日本ではもう少し狭義で、神経症精神疾患、薬物依存やアルコール依存などを

持つ方への社会復帰を促し、社会的なつながりを作るためのカテゴリとして

認識されています。

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精神疾患とは統合失調症や鬱など「心の病」を指します。

「心の病」を抱えている方の中には、感受性が強く、社会的なコミュニケーションを

とることが難しいために社会生活に馴染めない方もいます。

コミュニケーションを苦手とする彼らにとって、

高度なコミュニケーションスキルを必要とせず、チームワークや交流が図れる

フットボールは、リハビリや治療の手段として有効とされているのです。

実は著名なサッカー選手の中にも、心の病を抱えた選手がたくさんいます。

例えば名門レアル・マドリーで活躍した元イングランド代表デイビッド・ベッカム氏。

彼は長年「強迫性障害」という病気を患っており、靴を全て正確に揃えないと

気が済まない、食器を寸分のズレもなく並べないと落ち着かない、などの症状に

苦しめられてきました。また同じく元イングランド代表のポール・ガスコイン

強迫性障害(確認脅迫)でした。

もちろん、彼らが治療のためにサッカーを始めた訳ではありませんが、

サッカーのおかげで病気を乗り越えられたと語っています。

サッカーと精神には密接な関係性があるのです。

ボールはトモダチ! 

フットサルやサッカーの経験がある方はなんとなくわかるかもしれませんが、

サッカーには精神的にポジティブな要素がたくさん散りばめられています。

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掛け声

フィールド上では選手が絶えず動き回ります。ボールが欲しい時は掛け声を

かけなければパスを貰えません。必然的に、大きな声で掛け声をすることになります。

普段大きな声を張り上げることが苦手な人にとっては大きなストレス発散なのです。

爽快感

サッカー観戦をする時を思い出してください。

もし、自分が蹴ったシュートがゴールしたら?芸術的なパスが決まったら?

ドリブルフェイントで相手をかわすことができたら?気分爽快ですよね?

フットサルコートなら、初心者でもゴールを決める可能性が広がります。

その爽快感は、不安障害や鬱屈とした気分を吹き飛ばすには十分なものです。

成功体験

良いプレイができると「ナイスプレイ!(*ノv`)b」

ゴールが決まれば「ナイスシュート!(*ノv`)b」

相手のチャンスを潰せば「ナイスディフェンス!(*ノv`)b」

FCぽるとの練習や試合を見ていると、そういったポジティブな掛け声を

多く聞くことができます。

成功体験を経験したことがない、あるいは成功体験だと思えない人たちにとって、

周りからかけられる言葉は、自信につながり、前向きな思考へと導いてくれます。

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※写真はイメージです 

心の病を抱えている方は、元来感受性が強く、些細な環境の変化に過敏に反応します。

そして思い込みが強く、1つの考えに固執してしまったり、のめり込んでしまう方も

少なくありません。

彼らにとって、不安を打ち消し、目の前のボールを蹴ることに集中でき、

明確な役割や目標を与えられるサッカーは、リハビリには最適なのです。

実はパラキートも、社会人になって10年ほどの間、程度は軽いといえども

常に「抑うつ症状」を抱え、時には心療内科に通院することもありました。

当時からデザイナーとして仕事をしていましたが、

仕事に自信が持てない、周りに比べて劣っている気がする、才能がない…。

落ち込み、焦り、苛立ちに襲われる時間が本当に長くて、

正直、何度か「死」を意識したこともありました。

鬱を治すには抗うつ薬という薬を飲むのですが、気持ちを無理に高揚させるためか、

時には攻撃的になったり、気持ちが大きくなったりして、

自分を大切にしなかったり周囲に傷つけるようなこともしばしばでした。

しかし、その時に気持ちを抑えてくれたのは、

私が所属するフットサルチームと、そこに集うチームメイト達でした。

ソーシャル・フットボールチームではありませんでしたが、

気さくな仲間が集まり、勝ち負けやプレイのうまい下手にこだわらず、

誰でも楽しくボールを蹴ろう、というコンセプトのチーム。

抗うつ薬による攻撃的な衝動はボールを蹴ることで発散できるし、

プレイがうまくいかなくてイライラすると「楽しくボールを蹴る」という

コンセプトに反してチームの雰囲気が悪くなってしまうので、

それを防ぐために自然と気持ちをコントロールできるようになっていきました。

以来10数年、月一度の練習が楽しみで、私はフットサルを続けています。

良いプレイをすれば「いいね」と声をかけ、まずいプレイは「ドンマイ!」

時にはいじられながらも、自分の自信を取り戻す場として、

またコミュニケーションを磨く場としても、大切な場所になっています。

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※写真はイメージです

 

相手をかわしてもかわされても、自然と笑顔がこぼれる。

すごいシュートが決まれば気持ち良いし、ゴールを決められれば悔しい。

サッカーは、人間が持つ自然な感情を、自然なタイミングで発散することができる

要素をすべて満たしているスポーツだと思います。

ソーシャル・フットボールは始まったばかり

ソーシャル・フットボールの歴史は浅く、前述の通り、2006年にイタリアで始まった

社会的マイノリティの統合を目的とした取り組みが発端です。

それから約10年。日本では「ソーシャル・フットボール」の名の下で、

全国33都道府県にチームが存在し、医療や教育の現場で普及が進んでいます。

今年2月には世界で初めての国際大会が日本で行われ、

全国のソーシャル・フットボールチームから選ばれた選手によって日本代表選手団が

結成され、日本は見事、初代チャンピオンに輝きました。

jsfakokusai2016.wixsite.com

また、4月にはJFA日本サッカー協会)の呼びかけのもと、

7つの障害者サッカーのうちの一つとして「日本障害者サッカー連盟」

の一員となり、JFAの協力もあってさらなる整備が期待されています。

JSFA |NPO法人日本ソーシャルフットボール協会

JIFF: 一般社団法人 日本障がい者サッカー連盟

全国でも、地域リーグの設立やカップ戦での交流、また健常者フットサルチーム

との交流などの取り組みも行われています。

www.saitama-campione.com

とはいえ、競技としてはまだ始まったばかりで、誰でも日本の頂点だけでなく、

世界の頂点に立てる可能性を秘めたスポーツでもあるのです。

ソーシャル・フットボールの目標は、いつか「ソーシャル・フットボール」という

カテゴリがなくても、健常者と同じようにサッカーを楽しむことができる世界を

つくること。精神障害者への偏見や差別、誤解をなくし、社会に認知してもらうこと。

少しでもソーシャル・フットボールに興味を持たれた方は、

まずはチームを探してみてください。

・どんなプレイスタイル、レベル、スキルでも受け入れてくれるチーム

・悪いプレイにクレームをつけないチーム

・勝敗ではなく、楽しむことを目標にしているチーム

・笑顔が絶えないチーム

・練習が終わった後は切り替えができるチーム

特にソーシャル・フットボールのチームは、選手だけでなく運営スタッフも

当事者であることが多く、お互いの境遇や病気についての理解があり、

互いに助けあいの気持ちを持っているチームが多いことも特徴の一つです。

また高齢者や女性のプレイヤーも多く、誰でも受け入れてくれるチームもあります。

そんなチームが見つかったら、下手でも体力がなくても足を引っ張るのが怖くても

いいので、一度チームのメンバーとボールを蹴ってみてください。

今まであなたを苦しめていた辛くてきつい何かから解放されて、

そこから新しい世界が広がるかもしれませんよ?

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ソーシャルフットボールチームへの所属自体は、チームにもよりますが

当事者でも健常者でも、基本的には誰でも受け入れてくれるところがほとんどです。

ただし、大会への参加には制限がある場合があります。

・精神科を継続して受診し、主治医より通院証明書を発行された者

・障害者総合支援法の自立支援医療制度を利用している者

精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた者

各チームに参加の条件を確認して、チームを探してくださいね。

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(了)

※一部の記事内容は筆者の経験に基づいた箇所があります。あくまでも筆者の主観で

チームの選び方などは個人差もありますので、ご参考までにお願いします。

パラキートのパラスポーツ日記とは

「パラキートのパラスポーツ日記」では、一人の障害者サッカーファン「パラキート」が自分の脚でおもむき、自分の目で観て、自分の耳で捉え、自分の指で撮り、自分の頭で考えたママを発信していきます。

記事を通して、競技を取り巻く人・環境・社会問題に触れ、この魅力的な世界に関心を寄せ、寄り添ってくださる方が増えることを願っています。

プログラム制作・HP管理/「PickPhat(ピックファット)」

『"Pick"=掴み取る、選ぶ」と「"Phat"=格好いい、イカした』を組み合わせた造語を屋号に掲げる「PickPhat」。クライアントの意思を尊重し、選び抜いてイカしたサイトをクライアントと共に作り上げます。代表の加藤高明氏は電動車椅子サッカーチーム「Yokohama BayDream」の選手としても活躍中。

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