- 電動車椅子サッカー
東日本交流戦「電動車椅子サッカー埼玉コバトンカップ」
「電動車椅子サッカー埼玉コバトンカップ」。以前取材でお邪魔した埼玉県唯一の電動車椅子サッカーチーム「Black Hamers」がホストとなって開催される大会です。
参加選手が混成チームを作るというユニークな試合形式ということもあって、一度観に行ってみたいと思っていたこの大会、ようやくチャンスを作ることができたので、会場である埼玉県障害者交流センターへ足を運んでみました。
実は、埼玉県では「コバトンカップ」を冠する大会が多く開催されています。水泳、サッカー、バスケットボール、ボルダリング、果てはクイズ大会などなど、スポーツに偏らず幅広いジャンルで「コバトンカップ」の名が使われています。これが噂のコバトン、でかいハトです。
「電動車椅子サッカー埼玉コバトンカップ」は9回目を数え、関東のチームを中心に東北地方のチームも交えての東日本交流大会にもなっています。
勝ち負けを競うのではなく、互いに学び合う場
今大会にはホストチームのBlack Hamersをはじめ、神奈川県の強豪チームYokohama CrackersとYokohama Bay Dream、千葉県からはウィニングフェニックス、そして青森からPSCあおもりの選手も参加。PSCあおもりの選手たちにとっては、日本選手権を経験したチームの選手たちと同じチームでプレイできる、貴重な学びの場でもあります。
会場に到着すると、試合はすでに始まっていました。チームは赤、青、緑の3チームに分かれ、総当たり戦の形式で大会が進みます。公式ルール、時速6kmで争われます。
各チームバランスよく選手が分散され、経験豊富な選手は経験の浅い選手へ指導をしながら、試合が進んで行きました。
黄色とピンクのビブスはGKの役割。機動力に優れ全体を見回すことができる、経験豊富な選手がGK役を務めます。普段の大会ではあまり見ることのない光景ですね。青チームはYokohama Crackers 永岡真理選手がGK役。
緑チームは同じくYokohama Crackers 紺野勝太郎選手。
そして赤チームはYokohama Bay Dream 高林貴将選手がGKを務めました。練習試合では毎月対戦機会のある両チームですが、この日はタイトルがかかる大会。熱の入り方が違います。
勝利のバンパータッチ。見ていて清々しい瞬間です。
試合の合間のミーティングは、サッカー講習会
試合の合間にはキャプテンが指示を出します。普段、他チームとの対戦機会が少ないチームにとって、他チームの指示の出し方やルールを学べるのもこの大会の大きな意義。Black Hamers町田竜也選手は、チーム全員が出場できるようゲームプランを立てていました。
ミーティングの雰囲気はチームによって三者三様。青チームは永岡選手が主導になり、チームの方向性を確認します。Black Hamers長澤優希選手に実際に動いて見せて指導をする場面も。
そしてコバトンを味方に引き込もうとする赤チーム。
ミーティングに熱のこもる青チームには、コバトンは入り込む隙がありませんでした…。
いつもはチームメイトの二人。今日はライバル同士。
こちらでも熱いデッドヒートが繰り広げられていました。同じチーム同士で意地の張り合いも、良い刺激になりますね。
東北地方は電動車椅子サッカーのチーム数が少なく、大会もないため、コバトンカップは貴重な実戦の場になっています。PSCあおもりから参戦の柿崎長潤選手はこの日、実に4年ぶりのゴールを決めました。
大会出場回数の少ない地方のチームは、実戦の機会を作らなければなりません。そのためにかかる遠征費用も決して安くはありません。「4年ぶりのゴール」の裏には、地方のチームが抱える苦しい現状も垣間見えました。
日本選手権などの大会で出場時間の短い選手にとっても、実戦感覚を磨けるチャンスです。
またベテランにとっては、そうした選手との意思疎通を深めるためにも重要。
電動車椅子サッカー初級審判講習会も開催
この日は、電動車椅子サッカー初級審判講習会も同時に行われていました。埼玉県には「Black Hamers」しかチームがなく、県内で大会を開く機会がありません。審判は県を超えて活動をしてはいけない(特例がある場合は除く)ため、この審判講習会には大きな意味があります。
慣れない副審に、一瞬ひやっとするシーンも。
コバトンの乱入もあって大会はとても良い雰囲気に終わり、選手たちも久しぶりのメンバーたちとの交流を楽しんでいた様子でした。電動車椅子サッカーの「個人フットサル」のような大会は、普段組んだことのない選手たちと組むことで、ベテランやルーキー問わず、とても勉強になる場だったことと思います。
東日本交流戦「電動車椅子サッカー埼玉コバトンカップ」
しかし、その一方で別の側面も見ることになりました。参加していたある選手は言います。「大会の数が減り、数少ない大会でも時速6kmカテゴリがメイン。実戦経験を積みたい選手たちにとっては、ついつい熱くなってしまう側面もあります」
また、こんな声も聞かれました。「強豪チームのテクニックや戦術を学べたとしても、それを実戦で生かす機会がなく、それが少し寂しいですね」
昨年の組織変更(地域ブロック単位の活動から県単位の活動へ)以降、地域ブロック大会が廃止。日本選手権のレギュレーションが変わってからは地域予選も廃止されたため、年間の公式戦の回数が激減している電動車椅子サッカー界。
電動車椅子サッカーW杯アメリカ大会を終え、日本は世界における立ち位置を再認識させられました。しかしその反面、国内の競技環境は退行の気配さえ伺えます。コバトンカップのような地域交流の色が強い大会にもその重要度が高まっている昨今、今一度、国内の競技環境のあり方を見直すべき時が来ているのではないでしょうか?
(了)
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