【パラキートが行く!クラブ探訪②】BLACK HAMERS

  • 電動車椅子サッカー

埼玉県唯一の電動車椅子サッカーチーム「BLACK HAMERS」

埼玉県蓮田市。木々に囲まれた東埼玉病院の敷地内に、埼玉県の電動車椅子サッカーチーム「BLACK HAMERS」の拠点である「蓮田特別支援学校」があります。ここで「とある試みが行われるので、ぜひ見に来てください」とお誘いをいただいたのは4月の下旬のこと。

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埼玉県で唯一活動しているBLACK HAMERS(ブラックハマーズ)。その歴史は古く、創設は1995年。ロベルト=バッジョが決勝でPKを外し涙を飲んだ、W杯アメリカ大会の翌年のことでした。

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以来、メンバーの入れ替えを繰り返しながら活動を続け、メンバーは現在11人。1名をのぞき、筋ジストロフィーという病気を抱えています。毎年開催されるコバトンカップの主催や、地域の体験会などへの積極的な参加を通して、県内での電動車椅子サッカーの普及に努めています。監督は田口真也です。

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その実力も十分で、今年の春に横浜市で開催されたマリノスカップでは、出場メンバー3人ながら時速6kmのカテゴリで優勝するほどの実力を誇る強豪チームです。

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電動車椅子サッカークラブ BLACK HAMERS ブラックハマーズ

そんな強豪チームのBLACK HAMERSもチーム力の伸び悩みが大きな課題。そこで白羽の矢が立てられたのが、石川県を拠点に活動する「金沢ベストブラザーズ」の選手兼監督、城下歩氏(以下城下監督)です。

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城下監督は、石川県電動車椅子サッカー協会の「指導者県外派遣事業」の講師として、全国の電動車椅子サッカーチームに自らのノウハウを指導するという活動をこの4月からスタート。その第一弾が、BLACK HAMERSからの招聘でした。今回はその城下監督からのご厚意により、取材をさせていただくことになったという訳です。

若き指導者の挑戦

金沢ベストブラザーズもBLACK HAMERSと同じく、創設は1995年。ユニークな練習方法と、チーム名が示す通り兄弟のような結束力の強さで、2014年の日本選手権では3位に入る実績を持つ金沢の古豪です。

Welcome to KBB

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城下監督の父・健一氏(現在は石川県電動車椅子サッカー協会所属)は、2014年のW杯フランス大会の日本代表監督。城下監督自身も当時W杯出場メンバーとしてフランスへ渡りますが、現地でのクラス分けで選手登録できず本大会出場はなりませんでした。その悔しい想いと監督業への強いこだわりが「指導者県外派遣事業」という形で身を結びました。全国のチームを巡り、指導法や練習方法を伝えることによって、国内の競技レベル向上とともに、自身の監督としての経験を積みたいという気持ちも持っています。選手としては果たすことができない世界の頂点を、代表監督として目指してみたい。そんな思いが彼を大きな挑戦に臨ませているのです。

 

午前中の講義は質問の嵐

さて、この日は午前:座学、午後:実践指導に分けて、ほぼ1日がかりの内容の濃い講義となりました。チームの悩みや問題点を聞き出すところから講義は始まりました。

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基礎的な練習法から戦術の立て方、ストライクフォース※に日本の電動車椅子でどう立ち向かうのか、といったコアな内容まで、2時間の座学は全て質疑応答になりました。

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毒舌を自負する城下監督は、切れ味の鋭い返答をしていきます。普段から教員をされているだけあって、選手たちをどんどん引き込んでいきます。「目標を立てよう」という話の際には、金沢ベストブラザーズが掲げる目標を例に挙げ「打倒○○○○○」と固有名詞が飛び出すなど、終始監督ペース。

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途切れることのない質問に、チームの熱意と向上心が伝わってきました。

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昼食は、用意していただいた弁当とかわいいお菓子付きでした。3月に行われたドリームカップの試合の模様を見ながら、しばし歓談。金沢ベストブラザーズがトップチームと対戦した時のエピソードなどを語ってくださいました。

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昼食をご用意いただき、大変感謝しています。ありがとうございました!

午後は実戦!実習講義

昼食を挟んで午後は実技。学校の敷地に隣接した体育館へ移動です。

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城下監督は、BLACK HAMERSの実力を映像でしか目にしていません。まずは技術力と個の能力をチェックすることに。慌ただしく始まる練習準備。ご家族やスタッフが準備を始めていきます。実はこの時点から、城下監督のチェックの目が光っていたのです。

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「まずは一度ゲーム形式で見てみましょうか」城下監督は審判を担当します。

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落ち着いた日差しの差し込む中、ゲームが始まりました。躍動する選手たち。今日はほとんどのメンバーが集まっての練習で、選手たちにも気合が入ります。石井佑季選手は強烈なシュートを何度も放って、城下監督を驚かせていました。関東選抜選出経験のある石井選手、パワーは折り紙付きです。

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期待の若手、宮澤知弘選手(右)とマリノスカップでも活躍した長澤優希選手(左)。

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主審、線審の立場でチームのレベルを見定める城下監督。

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キャプテン町田竜也選手もかなりアグレッシブにプレイしていました。体力を活かした競り合いには定評があります。

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試合を通して一通りチームの課題を把握する城下監督。ここである問題点を見つけ出します。それはメンバー同士のフォローがないこと。監督は試合を止め、メンバーに問いかけます。声を掛け合っているか?互いのプレイをフォローしあっているか?

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BLACK HAMERSは石井選手の強烈なシュートと、町田選手のドリブル、長澤選手のバランスのとれた動きで勝ち上がってきたチームですが、個の力に頼り過ぎる傾向も見え隠れしました。連携力の強化、そこに城下監督は改善の余地を見出したようです。そこで城下監督はある練習方法を提案しました。

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それは、メンバーが輪になって、互いにパス交換をしていくというシンプルなもの。1つのボールを7人で回す。…それって簡単じゃないの??

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とりあえず何回続くかやってみましょう!ということで、ボール回し開始。狐につままれたかのような表情で黙々とプレイを続ける選手たち。

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「ボール回し、簡単ですか?」の声に「簡単です」と口にする選手たち。城下監督の目が光ります。「んじゃ、2個でやってみましょう」

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「!!」すると、それまで涼しい顔をしていた選手たちの表情に余裕がなくなってきました。それでもさすが手練のBLACH HAMERS、パスがつながります。

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「簡単だった?」「なんとか…」「はい、じゃ3個」「!!!」直線上でぶつかって不規則に軌道を変える3つのボール。それまで個の力でボールをこぼさずにプレイできていた選手たちも、さすがに把握できません。自然と互いに声をかけあわないとすぐにロストしてしまいます。

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いっぺんにボールが2つ迫ってくることも。うまく2方向へ捌く猪瀬剛選手。しかしすぐに次のボールが迫ってきます。

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「こっちのボールは任せて」「自分が行く」「ごめんお願い」試合中に必要な掛け声が、自然と出てきます。

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互いの動きを予測し、声を掛け合うことが大事と説く城下監督。声が小さくて届かなかったり、うまくしゃべれない場合はジェスチャーも有効と話します。ちなみに金沢ベストブラザーズでは試合中のやり取りでは簡単な手話を使うそう。

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次に、選手たちが知りたがっていた「1vs1の競り合い」について。実はこの日、スペシャルゲストがこの場を訪れていました。正体は明かせませんが、代表クラスの選手。トップアスリートの胸を借りる形の実践練習に、BLACK HAMERSの選手たちも気合が入っています。

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一人一人順番に、スペシャルゲストと1vs1を練習。馬力の強いストライクフォースとの競り合いをいかに制するか。その技術が大会では大きく影響してきます。荒井法夫選手、ちょっと気合入りすぎましたね。

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イエローカードでました!

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実際の試合では、ストライクフォースとの競り合いはなるべく避けたほうがいいという城下選手。世界の趨勢を鑑みると、ストライクフォースはすでに主流であり、日本が強くなる為に、電動車椅子サッカー界の大きな課題になっています。

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休憩中も議論を重ねる選手たち。

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お互いのコミュニケーションの大切さと、1vs1の競り合いのコツを学んだところで、今のことを念頭に置いて、もう一度試合形式での練習。今度は選手たちも互いに声をかけあいながら、よりコンビネーションに重点をおいての試合となりました。

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C級審判の資格を持っている私も、ご厚意で副審として2試合、旗を降らせていただきました。

長澤選手と石井選手、2台のストライクフォース同士の競り合い。

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声をかけながらのコンビネーション。

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誰よりも気合が入っていたのは町田選手。マリノスカップに出られなかった悔しさもあったからかもしれません。

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チーム代表の金田圭選手もプレイに熱がこもります。

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城下監督も気合、入ってます!カードを出す監督(冗談)。

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走り回る監督。

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練習が終わって、監督からのメッセージ

13時から始まった実戦形式の練習もあっという間に終了予定の17時に。今日1日の学びを振り返り、一人一人が感想を述べていきます。「参考になりました」「自分たちの課題がわかりました」手応えを感じている様子の選手たちです。

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最後に、城下監督が総括。1日では細かな練習を教えることはさすがに難しいが、何か気がつくことがあって、今後につないでいただけたら嬉しい、とのこと。そして、印象的な一言として「みんなの憧れの選手になってほしい。かっこいいと思われるような選手、トップアスリートになってほしい。その為に、自分でできることは極力自分でできるようになること」とおっしゃっていました。

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城下監督には普段から意識していることがありました。それは「選手はアスリートであれ」ということ。練習に使用する用具の出し入れ、モップがけ。それらは選手自らが極力やるべき、ということです。日常生活ではケアをしてもらっていても、競技に関してはなるべく自分たちのことは自分でする。「トップチームの選手は、極力自分たちでできることは自分たちでやり、スタッフも必要以上の世話は焼かないんです」。聞けば、金沢ベストブラザーズの練習の時も、用具の出し入れは極力選手中心でやるそうです。

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そういえば、マリノスカップや他チームの練習後の片付けでは、スタッフとともに作業を行う選手たちの姿がありました。「トップアスリートは自分たちのことを自分で管理する。そんなアスリートになってほしい」長年様々な選手を見てきた城下監督だからこその実感のこもった感想でした。

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後日、BLACK HAMERSから城下監督の元へ、大会での映像とアドバイスを求めるメールが届いたそうです。城下監督から刺激を受け、向上心をより高めたBLACK HAMERSは、9月末の日本選手権で時速6kmカテゴリでの初制覇を目指します。城下監督は今後も各地を回り、国内の競技レベル向上を目指して活動を続けます。レギュレーションが変わり、最多29チームの出場が決まっている今秋の日本選手権は、大旋風吹き荒れる大荒れの大会になるかもしれません。しかしきっと、見ている側には目の覚めるような、大興奮の大会になるに違いありません。

最後に、BLACK HAMERSのみなさん、城下監督、ありがとうございました!

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BLACK HAMERS は選手・ボランティアを募集しています。詳しくは下記URLをご確認の上、ご連絡ください。

電動車椅子サッカークラブ BLACK HAMERS ブラックハマーズ

◎BLACK HAMERS INFORMATION2018年3月25日第9回電動車椅子サッカー埼玉コバトンカップ開催予定!!詳細が決まり次第、HPにアップされますので、乞うご期待!

活動拠点:蓮田特別支援学校

埼玉県立蓮田特別支援学校

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(了)

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「パラキートのパラスポーツ日記」では、一人の障害者サッカーファン「パラキート」が自分の脚でおもむき、自分の目で観て、自分の耳で捉え、自分の指で撮り、自分の頭で考えたママを発信していきます。

記事を通して、競技を取り巻く人・環境・社会問題に触れ、この魅力的な世界に関心を寄せ、寄り添ってくださる方が増えることを願っています。

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『"Pick"=掴み取る、選ぶ」と「"Phat"=格好いい、イカした』を組み合わせた造語を屋号に掲げる「PickPhat」。クライアントの意思を尊重し、選び抜いてイカしたサイトをクライアントと共に作り上げます。代表の加藤高明氏は電動車椅子サッカーチーム「Yokohama BayDream」の選手としても活躍中。

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