- 電動車椅子サッカー
22回目の決戦は関西勢同士の激突!
全日程トーナメント制という熾烈な争いの中をくぐり抜けてきたのは、
奇しくも地元・関西を拠点とする2チーム。
6年ぶりの戴冠で、再び日本の電動車椅子サッカーを牽引する象徴となれるか、
奈良クラブ・ビクトリーロード。
過去大会ではあと一歩のところで常に優勝を逃し、今回こそ10年ぶりに
その名を轟かせることができるか、Red Eagles 兵庫。
それぞれに強い想いを胸に駆け上がってきたトーナメント、
いよいよ最後の試合が始まります。
FIFAアンセムとともに、両チームと決勝を裁く審判が入場。
そこには、この晴れ舞台に立つ晴れがましさと緊張感の入り混じった、
選手とスタッフの表情がありました。全ての選手がピッチ中央に並びます。
そして、一人一人が名を告げられ、観客からの祝福の拍手を浴びます。
この時ばかりは、両チームが日々費やしてきた1年間の努力が報われる瞬間です。
そしてそれは、チームを見守ってきたスタッフ、監督も同じ。
この1年間の彼らの努力と栄誉を讃えて、アリーナ全体が拍手で包まれました。
チームを鼓舞し、見守ってきたRed Eagles 兵庫の近藤公範監督。
チームの歩む道を明るく照らし続けてきた奈良クラブ・ビクトリーロードの大代監督。
決勝の舞台を裁く審判達。彼らも、この日のために切磋琢磨してきました。
それぞれ円陣が組まれ、最後の試合に向けて確認が行われます。そして、
大代監督は大きな声で選手たちを鼓舞し、ピッチへ送り出していきます。
近藤監督とスタッフは、選手のバンパーに触れながら、一人一人に試合を託します。
Red Eagles 兵庫のキックオフで前半は始まりました。
最初に主導権を握ったのは奈良クラブ・ビクトリーロード。
試合開始直後、Red Eagles 兵庫10#有田選手の強烈なシュートをしのぐと、
そのこぼれ球からカウンターを仕掛けます。
Red Eagles 兵庫のクリアからキックインを得るビクトリーロード。
3#山田選手のキックインは、Red Eagles 兵庫の縦列駐車のような
布陣に幾度もはじき返され、なかなかチャンスに結びつきません。
はじき返されること5回。そして6回目のキックインのとき、ついにその時は訪れます。
蹴り込まれたキックインは、10#有田選手と15#舩倉克之選手のわずかな隙間をすり抜け、ゴール前にこぼれます。そのボールを逃さなかった15#安井選手。
ボールを奪うと15#舩倉選手と熾烈な奪い合いに。もみ合い、一進一退を繰り返す
両選手。そして隙を逃さなかった15#安井選手は逆サイドにボールを振ります。
ボールは再三キックインを仕掛けた3#山田選手のもとに転がると、
3#山田選手はバンパーを一閃。ダイレクトに振り抜かれたシュートは
Red Eagles 兵庫のゴールへ一直線へ転がっていきます!
優勝へリードする1点を、まずは奈良クラブ・ビクトリーロードがもぎ取りました。
堪えてラストパスを通した15#安井選手にベンチが駆け寄ります。
早くも先制を許したRed Eagles 兵庫、シュート性のボールを幾度も放っていきます。
そのたびにそれをはじき返していくビクトリーロード。
Red Eagles 兵庫は、乱打戦に持ち込んで早い時間に追いつこうとしているようです。
深めのポジションを取る10#有田選手がフル回転で強烈なロングシュートを放ちます。
勢いに乗ったシュートは、相手のボディに跳ね返されても勢いが落ちません。
その反動を生かして19#内海選手がダイレクトシュートは、
さらに勢いを増してビクトリーロードに襲いかかります!!
勢いと大きさ、その二つが重なって破壊力を増したボールは、
例えるならばピンボールのバンパーで弾き返された大砲の弾。
いくら強靭な電動車椅子とはいえ、相手の身体を大きく揺さぶり、体力を奪います!
身を挺してゴールを死守する10#木下選手。簡単にはゴールを割らせない!
シュートが車体に当たるたびに、衝撃音が響きます。
19#内海選手のサイドへ流したパスを、4#上月選手がシュートに持ち込もうとしますが
ビクトリーロードの懸命な守備で決定機を生かせず。
その後もそれぞれに好機を見出すもシュートは阻まれ、試合は動く気配がありません。
紙一重のですり抜けていくシュート性のボール。ハラハラさせる展開が続きます。
前半はこのままタイムアウト。1-0、奈良クラブ・ビクトリーロードのリードで
折り返します。
息詰まる15分間、歓喜に沸く5分間
1点を先行されているRed Eagles 兵庫。ミーティングにも熱が入ります。
前半の序盤での失点。立て直し、反撃に転じるための猶予はまだあります。
準決勝で満面の笑みを見せてくれた奈良クラブ・ビクトリーロードの39#大代監督は、
ハーフタイム中、常に選手たちを和ませ、落ち着かせていました。
39#大代監督が声をあげます。
「(大代監督)では、この大会最後の掛け声となりました。
(大代監督)いくぞー!(一同)おー!
(大代監督)いくぞー!(一同)おー!
(大代監督)ビクトリーロード!(一同)おー!
(大代監督)いってらっしゃ〜い!!
(一同)いってきまーす!!!」
それはこの大舞台をめいいっぱい楽しんでいる、充実感に満ちた鬨の声。
実は、私が今大会を通して一番印象に残ったシーンでした。
リードを得ている奈良クラブ・ビクトリーロード。前半の勢いを維持し、
Red Eagles 兵庫の反撃を抑えたいところ。
しかしRed Eagles 兵庫も、黙ってやられているわけにはいきません。
後半開始早々でした。前半の失点と同じシチュエーションで、
今度はRed Eagles 兵庫が点を取り返します。
19#内海選手が放ったキックインは、ビクトリーロードDFの隙間を抜けて
逆サイドの10#有田選手のもとへ。10#有田選手はそれをダイレクトで合わせると、
相手DF陣の車椅子側面に当たり、そのままゴールヘ吸い込まれていきました。
オウンゴールという意外な形で、Red Eagles 兵庫、大事な一戦で息を吹き返します。
同点に沸くRed Eagles 兵庫陣営!試合はこれからだ!!どんどん行け!と鼓舞。
ゴールを守りきれなかったビクトリーロード。再び攻勢を強めます。
息のあったパスワークで積極的にゴールを狙う!
ちょっとした小競り合いも戦略のうちか。審判から選手への指導が入りました。
前半と同様、Red Eagles 兵庫は前線へどんどんボールを放り込みつつ、
パスワークも織り交ぜながら相手陣を混乱させていきます。
しかし再び持ち直してきたビクトリーロード、突き放しに成功します。
後半13分。やはりキックインが起点でした。左サイド、
3#山田選手の正確なキックインが反対にいた15#安井選手へ渡ると、
躊躇せずにそのバンパーを振り抜きます。ボールは一直線にゴールへ!
ついに決めた勝ち越しゴール!残り7分。Red Eagles兵庫に焦りが見え始めました。
まずは追いつかなくてはならないRed Eagles 兵庫。
しかし、その焦りからか疲れからか、セットプレーに少しずつ狂いが出始めます。
キックインが相手に当たって跳ね返りを狙われる、
仲間同士のパスがうまくいかないシーンが少しずつ目立ってきます。
押し込まれはするものの、全員で堅く守り、流していくビクトリーロード。
そして後半終了直前。
19#内海選手がサイドラインへ押し出したボールをキックインしたのは、
それまで再三にわたりチャンスを演出した3#山田選手ではなく、
ゴールゲッター11#中井選手でした。
渾身の力でバンパーを振り抜く!
勢いよく蹴ったボールは相手DFに跳ね返り、再び11#中井選手の元へ戻ってきます。
渾身の力を込めて、車体を回転させる11#中井選手。
勝利への道を切り開く鋭いライナーは、DFの間に開いたボール一つ分の隙間を抜け、
GKの横をかすめ、そしてゴールへ。
歓喜と驚嘆が混じった、怒号のような歓声がアリーナを包みます。
後がない状態だったRed Eagles 兵庫にとって、敗戦を告げるに等しい失点でした。
それでも最後まで試合を投げない Red Eagles 兵庫の選手たち。
笛がならない限り、まだ試合は終わらない!
終わらない限り、前へ、前へ!前へ進める限り点を取りに行く!
…しかしここで無情のホイッスル!!日本一の座に輝いたのは、
奈良クラブ・ビクトリーロード!
6年ぶり5度目の優勝です!!!!!
優勝に喜び、安堵する選手たち。勝利と敗北のコントラスト。
試合後、優勝したビクトリーロード陣営まで出向いて、選手一人一人を祝福する
近藤監督。同じ電動車椅子サッカーのチームを率いるものとして、
その苦労や過酷さを知っているからこその行動だったのかもしれません。
まるで自分のチームの選手のように手を握りねぎらう姿が忘れられませんでした。
そしてチームスタッフ同士もこの表情。お互いにいい試合をしたことの充実感こそが、
勝敗よりも何よりも勝る宝物なのかもしれません。
勝利したチームも、浮かれることなく、相手を労い、善戦に感謝します。
試合が終われば、同じ電動車椅子サッカーを愛する「同志」に戻ります。
大会を通じて、胸を踊らされるシーンでした。
こうして22回を数える日本電動車椅子選手権大会は、
奈良クラブ・ビクトリーロードの地元優勝という形で幕を閉じました。
熱い試合を何試合も間近で見た興奮と、大会が無事終わった喜びとで、
サポーターたちはいつまでも、その場を離れることなく拍手を送り続けていました。
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決勝 (A コート)RESULT
奈良クラブ・ビクトリーロード(関西1位)3 VS 1 Red Eagles 兵庫(関西2位)
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⑧(完)へ続く