- 電動車椅子サッカー
ついに決着へ、POWEFUL6の覇者決まる
2日間にわたって繰り広げられた熱戦を勝ち抜いて、頂点に挑む4チームが決定しました。POWERFUL 6は、23回目となる日本選手権の歴史に名を刻むために。そしてMAX10は記念すべき第一回「日本パワーチェアフットボール選手権大会」の初代王者になるべく。鳴り響くFIFAアンセム。4チームはそれぞれの思いを胸に、決勝戦へ挑みます!

POWERFUL 6 決勝SFCデルティーズ(静岡県)vs 大阪ローリングタートル(大阪府)
大会前、下馬評としては必ずしも評価は高くなかったSFCデルティーズ。大阪ローリングタートル、兵庫パープルスネークス、BLACK HAMERS …強豪ひしめくPOWERFIL6の中で、2得点無失点という成績。ここまでの快進撃を誰が予想していたでしょうか。

大阪ローリングタートルは1982年に設立された、日本最古の電動車椅子サッカーチーム。22年もの間優勝から遠ざかるチームは、1回戦で強豪BLACK HAMERSを退け、2回戦、準決勝では得点力が爆発。一方でチーム名通りの強固な守備で、ここまで無失点。堂々たる戦いぶりで、決勝の舞台にたどり着きました。

今、グリーンと白の2チームは、決勝のピッチへと歩みを進めます。見守る両チームスタッフたちの表情は、感慨深げです。

選手とスタッフ一人一人の名前が読み上げられると、はにかみながらも誇らしげな表情で両者が挨拶をします。電動車椅子サッカーの大会でもココロ踊るシーンの一つ。

両者各ベンチへと戻り、心を一つにします。いよいよ決勝、最後の試合が始まります!前半
前半はSFCデルティーズのキックオフ。2#石脇選手、挨拶代わりの強烈な開幕シュート。細かな動きが得意な2#石脇選手は、この試合でもチームの中核です。

大阪ローリングタートルは13#加川選手が攻撃の中心。彼もまた機動力を武器に、攻守に渡ってチームにリズムを与えます。

機動力で勝る大阪ローリングタートルにペースを握らせないよう、2#石脇選手、1#大手選手が先手を打ちます。特に1#大手選手は序盤から積極的に対人戦を仕掛け、気持ちが入ったプレーを見せます。気迫に押され、ペースを作れない大阪ローリングタートル。

6#中村選手はディフェンス、2#石脇選手はリベロ(守備と攻撃を自由に行う役割)、3#長谷川選手は攻撃。そして1#大手選手も中盤でフリーマンとして動きます。

作戦が功を奏して、試合は少しずつSFCデルティーズが押し込む展開に。前半8分には、2#石脇選手のFKを1#大手選手が押し込めば1点という惜しいシーンも。一方の大阪ローリングタートルは前半13分、1対1の絶好機も、6#中村選手のブロックに阻まれ、チャンスを逸してしまいます。

互いに一歩も譲らずの両者。特に13#加川選手と2#石脇選手の激しいデッドヒートは、試合中幾度も繰り返されました。先鋒である39#宮川選手、6#宮脇選手にボールを供給できない13#加川選手。

攻めに守りにと、常に13#加川選手の前に立ちはだかる2#石脇選手。

ようやく39#宮川選手がボールを触れたのは、セットプレイの時でした。

しかしそこにはSFCデルティーズのガッチリと組まれたディフェンス布陣が。

こう着状態が続き、大阪ローリングタートル、だんだんとイライラが募ります。しかし、それはSFCデルティーズも同じ。主審から注意を受けるシーンが増えてきました。

途中からはほぼノーチャンスに抑えたSFCデルティーズ。しかし終了間際、1#大手選手の13#加川選手へのブロックが危険行為と取られ、イエローカードを受けてしまいます。そして前半終了のホイッスル!0-0で折り返し。スコアは動きません。

彼らは今、決勝の舞台という、過去経験したことのない状況に置かれています。その瞬間を噛みしめるような、楽しむような、ない混ぜになった空気が感じ取れます。選手たちに声をかける1#田伐監督。

控えとしてチームを見守る4#市川選手も、心を一つに。

後半、SFCデルティーズは攻勢を強めます。2#石脇選手を、1#大手選手、3#長谷川選手がサポート。大阪ローリングタートルは常にボールを保持しますが、前半の流れを変えられません。13#加川選手の機動力とパスワークを封じられ、攻め手を欠きます。


決定機が訪れたのは後半15分。2#石脇選手のFKをゴールのファーサイドに詰めていた3#長谷川選手が押し込もうとするも、13#加川選手がなんとか掻き出します。

その1分後、今度は2#石脇選手の絶妙なキックインがディフェンスの間をすり抜け、あわやというシーンが。これは惜しくもゴールならず。

しかしその直後でした。13#加川選手とのボールの奪い合いに向かった1#大手選手が激しく体当たりし、危険行為とみなされイエローカードを提示されます。

「え…」「あれ?前半カード出てたよね…」ざわつく会場。準決勝で相見えた兵庫パープルスネークス6#松原選手や、SFCデルティーズを指導した金沢ベストブラザーズの10#城下選手も、成り行きを見つめます。

そして石井主審が高く掲げたのはレッドカード。2枚目のイエローカードで1#大手選手、退場です。

主審に促され、無念の表情でピッチを去る1#大手選手へ、ベンチからは「いいよ!」「ドンマイ!」の声。ベンチのスタッフが寄り添うように、アリーナ外へと姿を消していく彼を追いかけていきます。

ここまでの献身を知るからこそ、誰も咎める者はいません。観客からも労いの拍手が。とはいえ、SFCデルティーズは残された3人で戦わなくてはならなくなりました。

集中力の高い守備で切り抜け、なんとか後半をしのぎ切ったSFCデルティーズ。決勝戦はついに、延長戦へ突入します。試合の行方はまたもや分からなくなってきました。
延長戦
SFCデルティーズは3#長谷川選手、2#石脇選手の2人で攻め、ピンチには一気に自陣に退くという戦術。マークが甘くなれば、3#長谷川選手が積極果敢に仕掛けます。

延長戦はむしろSFCデルティーズペース。対する大阪ローリングタートルは2#石脇選手への対応に追われ、全てが後手に回ります。

気がつけば人数の少ないSFCデルティーズが主導権を握っていました。電動車椅子サッカーの場合、人数的な不利が必ずしも全体的な不利に結びつくとは限りません。

意を決して攻め上がる大阪ローリングタートルですが、ゴール前をキープしていた6#中村選手も、この時ばかりはゴールを開けてでも決定機を阻止しに行きます。

結局延長戦でも得点は生まれずスコアレスドロー。激戦となった決勝戦の行方は、ついにPK戦に委ねられることになりました。

過去2戦PK戦を制してきたSFCデルティーズ、ここまで1失点もなく完璧な守備を誇る大阪ローリングタートル。果たしてPK戦を制するのはどちらか。皆の注目がゴールエリアの一点に注がれます。

先攻は大阪ローリングタートル。1番手の13#加川選手はPKを難なく沈め、2#石脇選手もこれに続きます。互いに目線を合わせずすれ違う両者。

そして2番手のキッカーは39#宮川選手。しかし放たれたボールはポストに当たり、跳ね返されます。うなだれる39#宮川選手。その後6#中村選手が成功。SFCデルティーズ、一歩リードです!


3番手、大阪ローリングタートルも6#宮脇選手が落ち着いて決め、3#長谷川選手のキックを待ちます。

そして3#長谷川選手のPKも見事成功!

思わず総出で立ち上がるSFCデルティーズベンチ。優勝したかのような盛り上がりです。

最終4番手に再び巡ってきた13#加川選手は自分の役割をきっちりと果たし、最終キッカーの2#石脇選手をじっと見つめます。

決まればSFCデルティーズの優勝、外れれば首の皮一枚つながります。祈りは通じるか…。

静かに、静止したボールの横へと進む2#石脇選手。

振りかぶり、慎重にタイミングを計ります。

そして…放たれたシュートはゴール左際を通過。

その瞬間、POWERFUL6の王者が決まりました。優勝はSFCデルティーズ(静岡県)!! プレッシャーから解放され、笑顔弾ける持山監督とスタッフたち!

選手たちを出迎える宮島コーチも、選手たちへの賞賛でいっぱいの表情です。

戦い終わった選手たちを出迎えるスタッフたち。歓喜が広がります。

敗れた大阪ローリングタートル。悔しさをにじませながらも、勝者を称えます。素晴らしい試合を見せてくれました。指示に徹した1#田伐監督以下、戦力4人で戦い抜き、無失点を貫き通したそのチーム力は賞賛されるべきものでした。ただただ、1点が遠かった。

試合を裁いた審判団、そして試合の行方を見守ったすべての人たちへ、感謝の気持ちを。会場の拍手はいつまでも鳴り止みませんでした。

第23回日本電動車椅子サッカー選手権(POWERFUL6)は、地元静岡のSFCデルティーズが3戦連続のPK戦を制し、見事に優勝を飾りました。粘りと諦めない気持ちがもたらした初戴冠。まだタイトルを手にしたことのないチームにとって、この優勝劇は、大きな希望と可能性をもたらすものになるでしょう。

そして、興奮冷めやらぬうちにMAX10の決勝が始まります!
⑨につづく
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